小説 | ナノ
「真ちゃん」
帰ろーぜ
ボタンを上まで止めず、襷カバンを肩から下げて、だらしない格好の男がひらひらと手をこちらに振る。
「ああ。本屋に行ってもいいか」
「あ、じゃあCDとかDVDも売ってる店行こーぜ。」
「ああ。」
高尾和成
よく分からない男。
なぜか妙に懐かれていた。
「なあ、あとで俺ん家来ねえ?」
「は?」
お願いっ!となぜか顔の前で合掌してお願いされる。
そのまま流されるように、気付けば高尾の家にいた。
「実はさ、今日家に誰もいなくて」
「………淋しいから俺を呼んだのか…?それならかなりキモいのだよ」
「ははっ、淋しいというか、俺、夜苦手なんだ」
高尾は、晩飯何が良い?デリバリー頼むけど。
と、勝手に話しを進める。
そこで、俺はこのまま高尾の家に一晩泊まることになるのか、と思った。
きっと高尾も明日が休みでなければこんなお願いしないのだろうが、
母親に連絡を入れて、一緒にデリバリーのピザを食べた。風呂は別々に入って、気付けば12時近かった。
「もう寝よーか」
今日の高尾はやたら大人しい。
こっちが本来の高尾なのかもしれないが、俺といる時は常に煩いのに
「あ、今、失礼なこと思ったでしょ」
「無駄に勘だけはいいな」
二人で狭いシングルのベッドに入った。
体格の良い男二人が、狭いベッドに乗っただけでギシギシと嫌な音がするのに、寝転ぶと、いつかスプリングが壊れるんじゃないかと思うほど軋んだ。
「このベッド、大丈夫なのか?」
「いけるっしょ」
ベッドは部屋の隅にある。
高尾は壁のほうを向いて寝ていた。
俺は、その逆、部屋のほうを向いていた。
当然、眼鏡を外すから何も視えない。
「俺さ、暗所恐怖症なんだ。あと、狭いところも無理。普段はさ、家に誰かいるから、怖くても、なんか安心すんだけど、今日は誰もいないし。でも暗いところとかいると、すっげえ不安で、あーぜってぇ、今夜、死んじゃうって思ったり、夜どーしよーとか、ずっと考えてて。
でも真ちゃん見てたら考えるのも馬鹿馬鹿しく思ってさあ。
なんか、お前といると妙に安心するんだよなあ」
きゃ、俺ホモみたいじゃん
と、わざとらしく言った高尾。
きっとこれが彼を形成するものなんだろう。
本当に不安で、怖い時も、本当に悩んでるときも、場を明るくしようと無意識にしているのだろう。場が暗くなるのも不安なのかもしれない。
ひどく面倒な人間だと思った。
茶化したせいで全然誰にも真剣さが伝わらなくて、結局最後は一人で抱え込んで。
ああ、なんて面倒なやつなんだ。
本当に、面倒くさい。
「高尾、」
「ん?どした?」
「見せたくないなら、もっと上手に隠したらどうだ」
起き上がって眼鏡をかけた。
横になってて見えない顔。
高尾の肩を掴んで無理やり、天井に向かした。
ギシギシと悲鳴をあげるベッド。
月明かりと、電灯の光しか入らない、暗い部屋の中。
高尾の顔はグッシャグシャに濡れまくっていて、高尾はそれを隠そうと両腕で顔を覆った。
「俺、だっせえ」
「いまさらなのだよ」
「うん。ゴメンな。無理やり泊めて」
「お前の迷惑にも、もう慣れた。」
「ひでえ」
「高尾、腕を退けろ」
素直に退けて、見れた高尾の目は少し腫れていた。
潤んだ目が、窓から入る僅かな光に反射してキラキラと輝いていた。
「真ちゃんさあ、カッコよすぎて腹立つ」
色気ありすぎだろ。何歳だよ。
そんなこと言う高尾も、今日ばかりは全然負けていない。そもそも俺は色気なんて特に持ち合わせてはいない。
俺に見下ろされたままの高尾とバッチリ目が合って、逸らしたいのに、なぜか見つめあったまま。
意識が高尾に向く。
潤んだ瞳が女みたいだ。
「真ちゃ、」
高尾の言葉が合図のように動いた。
縋るような声で呼ぶ高尾に思わずキスをした。
お互い熱を持った唇は、かなり熱くて、火傷をしそうだ。
「ふ、、あっつい、真ちゃん、ホモだったんだね」
「ちがう」
「うそ」
そう言って、またキスをした。
ぐるりと首に巻きついた腕は少し汗ばんでいた。
どんどん熱くなる身体は、自然と、そのままベッドに沈んだ。
130628
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