小説 | ナノ
そろそろ潮時かな。
すれ違う若い親子を見てふと思った。
気づけば俺は28歳、んで相棒も勿論同じく年を重ねている訳で28歳。
だんだんと身体に軋みが生じてるのも知ってる。
思えば16歳から今まで12年間、よくもまあ、飽きずに隣にいれたもんだ。
自分で自分を褒め称えた。
「ただいまー…」
って、まだ帰ってきてねえよなあ。
ボソッと狭い玄関で、呟きながら靴を脱いだ。
夕飯は外で済ませたし、相棒もまだ帰ってくる気配はない。
きっと彼も外で食事を取るだろう。
一緒に住み始めた当時は、あれだけ2人でご飯を取っていたが、今や仕事の都合で、てんでバラバラ。
ビール専用になった冷蔵庫からビールを一本。
プシュッと音がしてプルタブを開けて、一口だけグビッと飲んで風呂に入った。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「高尾、バスケをしよう」
「は?」
休日、昨日会社でやり残した仕事を、部屋に篭ってやっていた。俺ってば真面目。
突然、同居人が、年末の大掃除以来のバスケットボールと自身のバッシュを持っていた。
「ま、いっか」
久しぶりに取り出した愛用のバッシュ。
キュッキュッと音を鳴らして感覚を思い出す。
ダンダンッとボールを打ち付けて手にボールが吸い込まれる感覚を思い出した。
自然と、汗が出てくる。
鬱陶しく感じた汗も昔はすごく快感だった。
「あーヤバ、久しぶりのバスケ楽しーわ」
「そうか」
軽く駄弁りながら、彼に繋いだパスは、機械のような出来上がった動作でボールリングに入れられる。
キラキラ
そのキラキラ輝いた瞳を久しぶりに見つけた。
彼の瞳の奥に宿る熱と、星。
吸い込まれるような錯覚に陥るほど見据えられる。
その瞳が、あまりに、綺麗で、
声を失った。
「ふは、」
掠れた笑みで彼を見た。
無性に泣きたくなった。
「高尾…?」
「は、だっせえわ。俺ってばサイテー」
俺も彼も変わってなかった。
なに一つ、あの日から大人になっちゃあいない。
年齢ばかりが大きくなって、それに着いて行こうと必死な子供。
自分に必死で彼を見ていなかった。
彼はこんなに自分を見ていてくれたのに、
時に置いていかれるのが怖かった。
「高尾、大丈夫か?」
「うん、うん、大丈夫、ごめんね、真ちゃん、ごめんね、」
きっと俺は後悔なんてしなかった。
彼と違う人生を送る選択をするのに、
でも、俺は、
「真ちゃん、愛してる」
「急に何なのだよ、気持ち悪い」
さあ、キスをしよう
あの頃から変わらない愛は
今も俺のなかにあって
俺はきっと、
今でも彼を愛してる
将来への不安は大きいけれど
彼となら絶対大丈夫
女々しくなってしまっていて
情けない気持ちでいっぱいだけど
彼はそんなこと気にせず
きっと俺を愛してくれる
それは星が輝いている限り
恒久に、
*130623
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