小説 | ナノ
「真ちゃん、誕生日おめでとう」
そういって彼は俺に小包を渡す。
昔の青春漫画にありそうな、河原。
青々と茂った草に座り込んだ。
小包の中身はプラネタリウムだった。
今から天の川見るのに可笑しいだろ?
って言って彼は笑窪を作る。
七夕生まれとかロマンチストかよ
過去に数度、彼に言われた言葉だった。
彼は俺の誕生日を毎年祝う、
俺も彼の誕生日を毎年祝った。
年を重ねるごとに増えていく彼からの贈り物には、全て星が関連していた。
真ちゃんにプラネタリウム渡すとか俺もナンセンスだよな。
河原に寝転がって彼は、言った。
「なぜだ?」
「だって真ちゃん、輝いてるよ。」
彼の言葉に目を丸くした。
彼の哲学には間違いがあった。
彼は気付いていない。
ひどく重要な事実に、
「高尾、」
「ん?」
「あるとき、一人の若者がいた」
「ぶはっ、いきなり何言い出すかと思ったら昔話?」
「いいから黙って聞け」
若者は全てにおいて優れていた。
知、学、経験、
まるで何十年、何千年、生きたかのような、それはそれは人類の目的地、とでもいうような、いわば完成系だった。
彼は光に満ち溢れていた。
しかし、彼の周りには誰もいなかった。
彼は、独りぼっちだ。
なので彼の満ち溢れた、人類に縋られるような知も、歴史を覆すような学も、迷った者を救う手を差し伸べられる経験も、全く役に立たなかった。
彼の光は、独りぼっちでは意味を成さなかった。
彼には知があるので、独りでも生きる術があった。
彼には学があるので、独りでも理論的に物事を考えられた。
彼には経験があるので、どんな時も冷静だった。
彼はいつまでも輝いていた。
しかし、彼はいつまでも孤独だった。
そして、そのまま彼は生涯を終えたのだった。
「…なんか可哀想な主人公だね。」
「だろう?高尾、万人は、輝いている。」
「うん。」
「万人のなかにお前も、俺も含まれてる」
「うん。」
「俺が輝いているというならば、お前も同等に輝いている。」
「あんな感じ?」
彼は、ふと、天に指をさした。
空は晴天で、眩しいくらいの天の川が、輝いている。
「ああ。」
結局、大事なことは言えなかった。
しかし彼には、伝わったのかもしれない。
彼は笑っていた。
俺の腕に回された腕。
彼の目はキラキラと輝いていた。
ああ、美しい。
彼はまさに美しかった。
そして天を跨ぐ流星群も美しい。
俺たちは輝いていた。
眩く、優しく、流星群に負けないくらいに、
*130622
フライング緑間の誕生日と七夕
高尾100%様に提出
← →
戻る