小説 | ナノ
※女体緑間
「あり?どったの真ちゃん、風邪?」
「あ、ああ、少し」
「まじ?今日部活休んだほうがいいんじゃない」
「大丈夫なのだよ」
顔の大部分を覆う大きなマスクで真ちゃんは大きな瞳以外が見えなくなってしまった。
風邪気味という彼女を気にしつつ、4限目の授業も終わり昼休みに入った。
「真ちゃん食わねーの?」
「食欲がないのだよ」
「食わねーと治るもんも治んねーぜ?」
「わかってるのだよ」
真ちゃんは一度開いた弁当包みを閉じてしまって、そのまま俺が弁当を食べ終えるまで本を読んでいた。
「でも真ちゃん、食欲ないってヤバくね?やっぱ部活休んだほうが…「大丈夫なのだよ」
そのまま昼休みも終わり、午後の授業も受け放課後、ふらふらと覚束ない足取りで真ちゃんが鞄を持ち上げた。
「真ちゃん、やっぱ休んだほうが良いって!」
「大丈夫だと言っているだろう!」
ぐぅ〜〜…っ
真ちゃんが声を張り上げたと同時になった大きな腹の虫。真ちゃんは腹を両手で抑えて顔を真っ赤にして教室を飛び出してしまった。
* * *
最悪だ、と思った。
朝起きたら鼻の頭に出来た大きく腫れ上がったニキビ。どうしようもなく嫌で嫌で、部活になったら外さなくてはならないのは分かってはいたけれど、高尾は男で私は女だから使っている練習場も違って高尾にはニキビを見られることはないし、チームメイトに見られるのも嫌だったが、それでもマスクを着けて学校に行った。鏡でマスクにニキビが映らないかとか、ぽっこり浮いていたらとか、しっかりチェックして、万全の対策をしてきた。
昼休みになって思い出したのは弁当のことだった。
何時も高尾と弁当を食べている、そこまでは良いが、食べ物を食べるとなったらマスクを外さなければならない。つまり必然的に高尾にニキビを見られてしまう。
想定外の出来事に、何時も通り腹は減っていたが諦めることにした。一食くらい抜いても大丈夫だろう、と甘い考えをしてしまったのだ。
「最悪だ…」
教室から飛び出して着いた先は誰もいない屋上で、普段慣れずに違和感だらけのマスクを外す。どん底とも言えそうなほどの気分の中、マスクを外した時の解放感だけが少し気分を楽にした。
「思わず怒鳴ってしまったのだよ…」
今更だが、部活を休めば高尾に見られることもなく家に帰れたというのに、自分に呆れた。
三角座りで膝に頭を乗せて視界をシャットダウンする。
高尾に嫌われたかな、なんて悲しい事を考えながら目を閉じた。
「真ちゃん、おはよ」
目が覚めて顔をあげると、すぐ隣から聞き慣れた声がした。
「泣いてたの?顎まで痕ついてる」
高尾の手のひらが肌に触れた。私の手より一回り近く大きな手は簡単に顔を包み込んでしまう。
「高尾…っ」
離して、と言おうとしても真っ直ぐな瞳で見つめられて身動きが取れない。
ずっと見つめられるのが気恥ずかしい。
それより鼻のニキビが気になって仕方ない。
引かれないだろうか。
「真ちゃん可愛い」
ちゅ、と鼻の頭にリップ音がした。
高尾が何をしたか、どこにしたかを理解したときに、前触れもなく顔が赤くなった。高尾の手のひらから解放され、一歩後ずさった。
「…お前は変わったやつなのだよ…」
と言うとニンマリと高尾の口元が弧を描いた。
「いつも綺麗な真ちゃんの白い肌に赤いニキビができてるとなんだか花の蕾みたいだぜ?」
「…やっぱりお前は変わってるのだよ。こんな老廃物の塊を可愛いだと?耳を疑いたくなる。」
「真ちゃんは気にしすぎだって。こんなの薬塗ったら治るんだし」
「薬か…」
「一緒に買いに行く?」
「行かん!!」
気にしすぎ、と言われると、たしかに今までの自分は少しアホらしかったかもしれない。
それに誰よりも見られたくなかった高尾に、優しい言葉をかけられてホッとした。
どうして見られたくなかったのかは分からない。高尾に笑われるのが怖かったからだろうか。そうなら、それで悩んでいた今までの私はやはり馬鹿だったのかもしれない。だって彼は今とても穏やかな笑みを浮かべてる。
「薬局行こーぜ」
「ふん…」
…でも外を歩くのは、やはり恥ずかしいので、またマスクをつけた。
*130407
きっと誰もが悩むニキビの話し
ちなみに付き合ってはいない。
両片思いで、ちゃっかり鼻にだけど真ちゃんにキスできて心の中でガッツポーズをとる高尾。
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