小説 | ナノ
もうずっと前から彼を知っているような気がした。
彼の手から紡がれる星のようにキラキラとした弧が俺の頭上を通る。
決して俺の頭に落ちたりしない。引力に逆らわないボール。
彼の手から紡がれるボール。
俺から彼に届けられたボール。
なんだ、俺が原点だ。
じゃあ俺もキラキラしてる?
ちがう。
俺はキラキラできない。
自分一人では輝けない、月なんだ。
彼は太陽のようだ。
眩しくて直視できない。
何万ともいる月、そのうち数人の太陽。
太陽に導かれるように、俺たち何万もの月は、太陽に照らされ、安心した日々を過ごしてる。
「真ちゃん。どんな気分?」
「ッ、サイアク」
ああ、この眩い光はなんだろう?
光がなければ輝けない俺たちは、個体ではあまりにも無力でちっぽけだ。
光はみんなの希望であり一つに収まるような器ではない。
彼はいま無理をしていた。
この敗北の原因は俺だ。
がんばった。みんな一丸となってがんばった。
無力だった俺らの光を、俺は我儘で彼を我の物にした。
下心、嫉妬、あらゆる負の感情を隠して、聖人にでもなった気分で、光に近づいた。
この敗北はその現実を突きつけられた結果だった。
俺は恋をしていた。
彼は無理をしていた。
ちっぽけな影に、それ相応のちっぽけな鳥かごに入れられた光は今放たれる。
ここから飛び出して、何の拘束もない自由な空で、また俺たちを希望を与えてくれる。
昔、不完全燃焼の光は、ホンモノの光に導かれようとしていた。
もうずっと前から彼を知っているような気がした。
*130621
中学時代、チームで一番強かった高尾はみんなの光のような存在だった。帝光と対戦するまで、彼はみんなの光で、彼はきっと無理をしていた。
彼は帝光に負けた原因に気付いた。
圧倒的な力の差、以前の問題がそこにあって、彼はその失敗を彼に繰り返させてはいけない、と気付いたときの話し。
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