小説 | ナノ
「真ちゃーん!!」
「高尾か、」
「暇だから来ちゃった。こちらの人は?」
「ああ、新しい友人だ。」

……

「うわああああっ!!」

ぜぇ、ぜぇ、とこの時期には珍しい荒い呼吸と大量の冷や汗で飛び起きた高尾は何だか馬鹿らしくなって自分の頭を乱暴に掻いた。

一回から母親に煩い!と叫ばれ、すっかり冴え切った目で時計を見るとまだ5時すぎ、何時もより早い起床に二度寝しようとするも、夢の続きを見てしまいそうで柄にも無く怖くて、ベッドから抜け、さっさと制服に着替えてしまった。

支度もそこそこに、高尾は充電していた携帯を取って着信画面を開いた。
こんな朝早くでは起きてないだろうか。
何度か迷った末、思い切って発信ボタンを押すと、しばらくしてから不機嫌そうな低い声が電話越しに聞こえた。

「真ちゃん、おはよ」
『…お前は殺されたいのか』
「ははっ怒んなって」

怒るなと言うほうが無理のありそうな時間ではあるが、

『…何かあったのか』
「んー何もない」
『切るぞ』
「ごめんなさい」

こんな早朝からの電話、きっと電話された方は悪意しか感じない電話ではあるが高尾の電話の相手、緑間はこんな時にも相手の心配をする、根は優しい性格なのだが、きっと本心を言ったら強く否定するだろうから高尾はそっと言わずに微笑んだ。

『嫌な夢でも見たのか』
「うん。ちょーヤな夢」
『どんな夢だ』
「んー俺と真ちゃんがクラス離れちゃう夢」
『そういえば今日、発表か…』

何時もと違い弱々しい眠た気な声で話す緑間が何だか可愛らしくって高尾は頬が緩みっぱなしのままだ。

「うん。更にね真ちゃんにお友達ができる夢。」
『俺に友人がいたらダメなのか』
「そうじゃねーって!ただなんか淋しくってさ…輪に入れそーにもない雰囲気だし」
『……』

急に黙り込んでしまった緑間に高尾は数度呼びかけるが返事がない。どうやら電話の途中に眠りに落ちてしまったみたいだ。
高尾は口を尖らせながら、先ほどの弱音のような自信のない台詞を聞かれなくて良かったとホッとしながら電話を切った。あんな台詞、高尾の中ではカッコ悪い台詞に入る。それを大事な友人に聞かれるのは更にカッコ悪い。しかも高尾は緑間に頼られたいと思っていた。今以上にもっと信頼を重ねて、バスケだけじゃなくて、普段でも、何でも自分一人でやろうとする緑間の力になりたいと思っていた。

「あと一時間くらい暇じゃん…」

高尾は時計を見て溜息を吐いた。
あと一時間以上も1人でいなければならないのだ。ゲームだってする気分ではない。頭の中では、あの悪い夢がぐるぐると廻っていた。あの夢が正夢になりそうな予感が強くて、高尾は拭いきれない不安と共に一時間過ごしたのである。



「学校行きたくねえ」
「馬鹿なこと言ってないで行きなさい!サボったら家入れないからね!!」

玄関で靴を履きながら呟くと、母親に聞こえていたのか外に放り出されてしまった。地獄耳め。と母親に文句をいいながら、高尾は学校、とは違う方向へ向かって歩き出した。

「真ちゃーん!あっそびましょー!」
「煩いのだよ!!ピンポンは一回で十分だ!!」
「インターホンをピンポンって、真ちゃん何歳よ」

緑間家の前で、急かされたせいでまだ制服のホックを止めれていないまま出てきた緑間は大変お怒りのようで高尾は、くっくっと喉を鳴らして笑う。

「だいたい何なのだよ。今日は、」
「えー?なにがよ」

とぼけると眉間に皺を寄せた緑間。

「朝から電話してきたり、わざわざ迎えに来たり…何時も朝はお互い1人で登校するだろう。」
「たまには良いじゃないの!ほら行こーぜ」

緑間の手を引いて歩き出す。
緑間は黙りこくってしまい、いたたまれない空気が2人を包んだ。

「何か喋ってよ真ちゃん」
「…そんなにクラス替えが怖いのか」
「……そんなことねーよ」
「別に離れたところでお互い支障は…」

言いかけた緑間に高尾は振り返って緑間の両腕を掴んだ。

「俺は大有りだっつーの!真ちゃん何とも思わねーの?俺はお前と離れたら、淋しいに決まってんじゃん!俺はお前のこと、お前のこと…」
「…?なんだ」

高尾は下を向いて唇を噛んだ。
勢いを失った高尾に緑間は何も出来ずにいた。

「お前のこと、一番の親友だって…思ってんの!一番お前といて楽しーんだよ!」

何時もと変わらない、冷静な表情で見つめる緑間に、高尾は何を言っても無駄だ、と諦めて腕を離した。きっと緑間は自分のことを何とも思っていないんだろうな、と今まで現実逃避していた事を自覚させられて思わず泣きそうになる。

「俺は、お前のことを友人とは思っていないのだよ」

追い打ちをかけるような言葉に、知ってるよ、としか返せない。高尾は溜まった涙を制服の袖でゴシゴシと乱暴に拭いた。

「お前の思ってる好きとは違う。俺はお前のこと、友人とは、見れないのだよ。」

何かを抑え込むような苦し気に表情を歪ませた緑間に、高尾は目を丸くした。

「それって俺のこと好きってこと…?」
「ああ」
「恋愛対象で?」
「…ああ」
「何で嫌そうな顔すんの」

まるで苦虫を噛み潰したような顔をする緑間に問うた。

「嫌なのはお前だろう。」
「…嫌じゃ、ねーよ?真ちゃん男だし、俺も男だけどさ、何か全然不快じゃねーや」
「…お前、ホモセクシャルだったのか」
「いや、お前だろ」


驚いたように目を見開く緑間に高尾は笑った。先ほどまでの涙は何だったのか。と自分で思ってしまうくらい今は心は満たされている。

「じゃあ真ちゃん、付き合おっか」
「…仕方ないな」
「何で上から目線?好きって言ったの真ちゃんだよね?」
「煩い。」

緑間は恥ずかしいのか耳まで茹で蛸のように真っ赤に染めて高尾を置いて歩き出した。高尾は置いていかれまいと緑間を追う。

「真ちゃん!」
「なんだ」
「俺やっぱクラス替え怖えよ」
「心配などいらんのだよ」

緑間と肩を並べて歩く。
見上げると緑間は不敵に微笑んでいた。

「なんで」
「もし離れたとしても、お前が休み時間には必ず俺の教室に来ると確信しているからな。どんなに教室が遠くても、だ。それに授業が終われば部活でずっと一緒だろう」
「…ったく何処からそんな自信が湧くんだか…」
「来なくても構わんが嫉妬する羽目になるのは高尾なのだよ」

淋しいくせに、と高尾が小声で呟くと、頭上から、煩い。と怒られる。
ぶらぶらと歩調に合わせて揺らしていただけの手に緑間の手が重なった。そのまま指を絡め取られて驚いた高尾が緑間を見上げると上機嫌な緑間が、フッと鼻で笑った。

「くっそ…真ちゃんには敵わねえ」
「当たり前なのだよ。俺は如何なるものにも人事を尽くしているのだからな」

熱くなった頬を抑えて高尾は緑間をまた見上げて笑った。



運命よりも強い


*130405



← →

戻る

「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -