小説 | ナノ
※同棲緑高
「真ちゃん今日何食べたい?」
「そうだな…何でもいいのだよ」
「それが一番困るんだっつーの…」
朝の出勤前の慌ただしい時間は毎日この話題で持ちきりで2人ともパジャマからスーツに着替えている。
「おい、高尾、ネクタイが曲がってるのだよ」
「あ、あんがと。宮地さんにキレられるとこだったわー」
高校が同じだった二つ上の先輩と高尾はたまたま同じ会社に入社していた。
宮地さんの就職活動で最後の切り札として受けた会社に高尾は賭けで受けていた。
しかし大学に行った宮地さんと、高卒で働き出した高尾では高校時代では先輩だった宮地さんが今では高尾の後輩になってしまったという微妙な立ち位置にいた。
俺とて苦笑いしか出来ない。
「あ、真ちゃん!この書類机の上置きっぱだぜ?今日絶対いるって言ってなかったっけ?」
「ああ、すまない」
何時もは高尾の方が出勤が少し早い。
俺は会社に行く準備を高尾と一緒に行い、高尾を見送って、コーヒーを飲んで休憩してから家を何時も出ていた。
「高尾、そろそろ時間なのだよ」
「おう、じゃあ皿洗い宜しくね真ちゃん」
「人事は尽くすのだよ」
「もう皿割るなよ?」
玄関でケラケラと笑いながら靴を履いた高尾に鞄を渡した。
「真ちゃん奥さんみてえ」
「ベッドの中じゃ奥さんはお前だろう」
「いやん真ちゃん、朝からセクハラかよ」
「煩い、さっさと行け。電車に乗り遅れるぞ」
「へいへい」
鞄を受け取った高尾が俺の肩に手を添えて背伸びする、俺は屈んで高尾の腰に手を回した。
「今日のご飯は唐揚げて良い?」
真ちゃん好きだろ?と言って笑った高尾。近すぎて焦点が合わなくて、よく表情までは見えないがきっと微笑んでいる。
そのまま軽くキスをして、
「じゃ、いってきまっす!」
「ああ、気を付けるのだよ」
バタンッと高尾が出た後、ドアは勢いよく閉まる。毎日見る光景で慣れきったつもりでも、無性に淋しくなってしまう。
でもこの淋しさも割と嫌ではない。
送り出す虚しさを知らないであろう高尾が少し羨ましくも感じるが、
「まったく…」
急いでいたのか脱ぎ散らかったままの高尾のパジャマを拾って洗濯機に突っ込んで目を細めた。
everyday life
(愛おしい日常)
*130329
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