小説 | ナノ
 
「俺は女の子が好きだ!」


何というか、その、第一印象は最悪なヤローだった。
関わりたくないやつNo.1みたいなやつ。
そんなヤローとまさかの同じ部活、同じクラス、席まで隣だなんて運が悪いと心底思った。


そんなヤロー、もとい森山とは三年過ごしているうちに、知り合いから友人、友人から恋人へと大発展劇を繰り広げた。
まさか初めて付き合う人が男、さらに森山とは三年前の俺からしたら悲劇以外の何者でもないが、


三年になっても同じクラスだったが今は席が遠い。
何より俺たちは今絶賛喧嘩中だった。
理由なんて覚えてないくらいチンケなものだった気がする。
けれど謝るなんて負けたみたいで嫌だ。
休み時間はそんな理由で机に突っ伏して寝ていた。周りは俺がバスケ部の主将なのは知っていたので恐らく疲れてるか何かと勘違いしてくれるはずだ。実際疲れてもいるが、


「きゃはは!森山サイコー!」


森山の周りには数人の男と耳が痛くなりそうなほど甲高い声で笑う女がいた。
いつもなら席に来て恋人の前で熱心に女の子について語るのだが、喧嘩となった途端、アイツは見せつけるかのように何時もより声を張り上げて話していた。

ったく嫌みなやつだ。
だから俺は絶対気にしてない風にしている。いやいや、『風』でもない。
実際気にしてないんだ。ホント、
もー堪忍袋の緒が切れたというか、アイツはもう綺麗サッパリ関係を切ってやる。


「……笠松先輩、その話しもう3日連続で聞いてるんスけど」

「うるせー!愚痴くらい聞けや!」

「結局寂しいだけっしょ?さっさと謝ってしまえば良いじゃないっスかー」


練習後、隣を歩く黄瀬は投げやりに言う。てか謝らねーっつったろ馬鹿か。

手の中にある空の缶コーヒーが少しめきっと軋む。


「うわあ……苛々半端ないっスね」

「分かってんなら発散させろや」

「それはマジ勘弁ッス」


八つ当たりだし理不尽なのは分かっているが、こうでもしないと落ち着かない。
苛々して他のことに集中出来ない。例えバスケの練習だとしても、だ。集中力が欠けていて、飛んできたボールにぶつかったり、意味のない動きをしてしまったり、おかげで大事な時期だというのにみんなの士気を下げてしまったり監督に呼び出されてしまったり。


「……先輩、」


急に小声でボソリと俺を呼んだ黄瀬に、何だよ?と眉を顰めた。


「後ろ、見てくださいッス。でもこっそりッスよ」


意味が分からず半信半疑で横目で後ろを見た。


「!」

「何だかんだ言って、森山先輩も笠松先輩大好きッスよね」


クックックッと声を殺して笑う黄瀬。
俺は信じられなくて足が止まった。

後ろにいたのは、まあ予想通りというか、森山だ。
付けてきた、わけではないと思う。
何せ森山は小堀と先に帰ったのだ。おおよそ寄り道途中に俺と黄瀬を見かけて、とかそんな感じだろう。
人が多めの大通りで、うまく人ごみに紛れていて今まで全く気付かなかった。ストーカーになったら被害者は大層困るだろう。今の被害者は俺だが、、全く迷惑極まりないやろーだ。第一印象と変わらず、最悪だ。


「……黄瀬、お前もう帰れ」

「もちろんッス、じゃお疲れ様でした」


上手くいくと良いっスね、とニヤニヤと何とも嫌らしい笑みを浮かべる黄瀬を蹴り飛ばすと、黄瀬はなお笑みを崩さないまま手を振って信号を右折して行った。


「…森山、バレてんぞ」


踵を返して、5メートルほど後ろを歩く森山に、アホ、というと森山は苦笑いしたまま今まで保っていたであろう5メートルの距離をいとも簡単に崩して近寄ってきた。


「まさかバレるとはなあ、結構自信あったのに」

「バレバレだっつーの」


見つけたのは黄瀬だとかは絶対言わない。そのまま森山と大通りを無言で歩き出す。少し歩いて信号に引っかかって歩を止めた。


「……まさか妬くとは思ってなかった」


お前と黄瀬見た瞬間マジ焦ったわ。と自嘲気味に笑みを零す森山は迷子になった子供のようで、ホントは今すぐにでも抱き寄せたいけれど人ごみが理性に働いて言うことを聞いてくれない。


「……俺も、クラスの女にちょっと妬いた…」


森山だけが妬いているんではないと、隠していたはずの嫉妬を自ら話してしまった。でも自分だけ愛されてるようで、森山に自分も同じだけ想ってることを伝えなければ、森山が可哀想に見えた。
森山は少し驚いたように固まったあと、今までため込んでいたモノを吐き出すように吹き出してその場で笑い声をあげた。


「俺たち馬鹿なことしてたのかもな」


笑いが収まったのか、息を整えるため深呼吸したあと、まだ収まっていないのかまたプクク…と少し気味悪い笑いを必死で堪えていた。


「馬鹿は森山だけだろ」

「お前も十分馬鹿だって」


と言った直後に、あ、笠松、あの子カワイくね?と何時もの調子で話す森山の頭を引っぱたいた。


「笠松はやきもち焼きだなあ」

「ちげえよ馬鹿!」

「はいはい」


ぎゅっ、と手を握られる。
ちょ、と離そうとすると、より力を込められ手が痛んだ。大人しく握り替えすと、森山は満足げに笑った。
久しぶりに握った手から森山の温もりが伝わって心地よかった。






馬鹿なのはお互い様

(森山先輩のこと見つけたの俺なんスよー!)
(ばっ…言うなっ!)
(え?今……)
(なな何でもねえよ!)



*130309

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