小説 | ナノ
桃井は最初、緑間が心底怖かった。
もう仏頂面とかつっけんどんな態度とか全部が怖かった。
嫌われてるんだろうと思った。
嫌われてるのも怖がった。
もうホントとにかく2人っきりになったらそれこそ圧死してしまいそうなほど重たい空気が流れるんじゃないのだろうか。と思って2人っきりも避けて緑間とは一線置いていた。
「桃井」
ふわり、ガラス物を扱うみたいに、そっと桃井の頭に降りてきた手は髪の毛を繊細な動きで梳いた。指を絡ませると柔らかい桃色の髪は、するんと指から逃れてしまう。桃井は、心地良くて、もっとと言うかのように手のひらにすり寄れば呆れたように少し微笑んだ緑間は桃井の額にキスを落とした。
緑間に頭を撫でられるのが好きだ。だから桃井は髪の毛の手入れは怠らない。緑間風に言うと人事を尽くしていた。
緑間と過ごす時間は桃井にとって平穏でいて実に平和で幸せだ。けれど時間の流れる速さだけは他以上にずば抜けて速い。
桃井は緑間の彼女だ。
一緒に過ごした時間はまだ浅はかなものだが気持ちは十二分にあった。
一つ後悔があるとすれば緑間ともっと前から仲良くなれば良かった、それくらいだ。あの時の自分は何も知らずに勝手に緑間に偏見を抱いていた。何度謝罪しても済まない、そう思うほど桃井は悔やんだし、あの時の自分が心底嫌いになった。
でも結局いつかは彼のことを好きになって、緑間と付き合う日がくるだろうと桃井は確信していた。
何て言ったって自分は緑間の運命の人に当たるのだから、
遅かれ早かれ惹かれ合って、そっから先を共に過ごせるのなら昔の自分も許せる。
緑間の手が桃井の肩に伸びて引き寄せられる。桃井はそれを受け止めて、緑間の大きな背中に手を伸ばした。
「大好きだよっ」
「俺もなのだよ」
顔を見合わせてキスを交わせばバツが悪そうにお互い桃色になった頬で笑った。
運命
*130309
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