小説 | ナノ
 
なんとも歪な形をしたチョコレートの塊は可愛らしい箱の中にすっぽり入っていて、それが歪さをさらに増して見えた。

見栄を張って男の手作りなんて馬鹿なことしたなあ、と思う。
真ちゃんなら手作りしたら喜んでくれるんじゃないかと期待と愛を込めて作ったつもりだったが、完成品は人に見せられたもんじゃないほど酷い姿。

一応、如何にもそれらしいラッピングもして鞄に突っ込んではみたが、渡すのは(今のように)失敗した時のために買っておいた市販の、それでも少し値の張るチョコレート。
失敗作は、うん、ゴミ箱行きだ。

ちらっと時計を見ると、何時もなら家を出ている時間で、慌てて家を出た。


*


「あー…今日もつっかれたー!死にそー」

「それだけ元気があれば大丈夫なのだよ」


俺ら以外誰もいない体育館での自主練習も終わり部室で、まだまだ寒い季節には似合わないTシャツを汗でびっしょり濡らしながら、パタパタと風を身体に送る。


「あまり冷やすと風邪をひくぞ」

「えー?心配してくれてんの?」

「心配して当たり前だろう。」


どきっと胸の鼓動が脳に響く。
天然はこれだから困る。と心の中で苦笑した。
恥ずかしい台詞とか、平気で言っちゃう。
おかげで俺はいっつも真ちゃんの言葉に翻弄されっぱなしだ。
狡いなあ。とか思ってるうちに真ちゃんは着替えを済ましてしまっていて、後を追うように俺も急いで着替えた。

真ちゃんはロッカーから、今日、山のように女子から貰ったチョコレートの数々が入った紙袋を若干面倒くさそうな、嫌そうな顔つきで取り出した。全国のモテない男子を敵に回した瞬間だ。


「真ちゃん実は俺もさあ」


今あげたら真ちゃんは、それこそ心底嫌そうな表情をするに違いない。
しかしだからと言ってこのまま持って帰る理由は見当たらない。
だってバレンタインなんだから恋人にチョコレートを渡して当然だろ?

鞄から取り出したチョコレートを渡す。
もちろん市販の、


「……」


差し出したチョコレートを受け取らない真ちゃんの目線は俺の手元になかった。


「そっちの袋は何だ」

「え?」


言うや否や真ちゃんは俺の鞄を取り上げて、中から失敗作のチョコレートの詰まった袋を取り出した。
 
「こっちはお前の手作りだろう」

「…いやあ、失敗しちゃって」


変に鋭いなあ。と関心する。
関心してる場合ではないんだが


「手作りの方を頂くのだよ」

「止めとけって。ぜってー不味いから」

「これ以外全部ゴミ箱に打つのだよ」

「いやそれ普通に最低じゃね?」


諭しても全然聞かない。むしろどんどん頑固になっていくのは、もう目に見えているのでここら辺で諦めてしまう。

丁寧にラッピングのリボンを外して中身を開ける。ふわりと俺ら以外誰もいない部室にチョコレートの匂いが漂った。


「……なかなかユニークな形なのだよ」

「…真ちゃんにフォローされる日が来るとは夢にも思わなかったわ」


予想以上の出来の悪さに真ちゃんも驚きを隠せないようで、渾身の下手くそなフォローが逆に胸に刺さる。

真ちゃんは一拍置いてから歪なチョコレートを指で摘んで持ち上げた。
左手に巻かれた真っ白な包帯に茶色がこびり付く。


「…やっぱ止めとけって」


俺の最後の忠告も無視してパクリ、
真ちゃんはチョコレートを口に放り込んだ。


「見た目ほど不味くないのだよ」

「マジか」

「わざわざ嘘など吐かん」

「なら俺の愛のお陰かも」


真ちゃんの言葉に胸をなで下ろしながら、馬鹿みたいに笑ってみると応えるように真ちゃんも笑った。

真ちゃんは、もう一個チョコレートを取り出して口に入れた。






愛で中和する



*130228

大遅刻のバレンタイン緑高




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