小説 | ナノ
 
※近世ヨーロッパパロ


趣を感じさせる古くも立派な城の前に絢爛豪華な馬車が止まる。
開かれたドアから滑らかな動作で降りるのは長い艶のある黒髪を上で結い、鮮やかな赤の薔薇の髪飾りをし、散々飾られたドレスを身に纏い、目元は仮面で隠され、髪飾り同様真っ赤な口紅が弧を描く。
少し幼さを感じさせるが、スレンダーな体型をした美人を想像させる容貌。


(何で俺が…)


心の中で呟きながら、コツ、コツ、と一段ずつピンヒールが石段を蹴る音を耳にしながら階段を上って行く。
恐らく城の召使いであろう男に手を取られながらも、最上段まで上りバックから招待状を門番に渡すと、あっさり扉が開かれる。門番の間抜けさに、あがりそうになる口角を引き締めた。


(てか、すげ…!)


扉を潜ると中は怪しげな仮面を付けた人間だらけ。
みなが如何にも高級な食べ物、飲み物を、摘みながら談笑している。
何より彼女、いや彼が驚いたのは、内装だった。
見渡す限り無駄に埋め込まれた色とりどりの宝石が光り輝いている。


(こりゃ、盗み甲斐がある)


城がこれほど豪華にされている、つまり、中にいる人間も相当の身分のはず。
高尾の目には人間の指や首元に光るダイヤモンドばかり。


高尾は所謂泥棒だった。
それも単独行動ではない。
仲間がいて、サポートがあり、時と場合によって盗みに動く人間を変える。
今回が自分の番だっただけ。
女装までして忍び込んだのは自分と同じく裏の人間ばかりが集まる仮面舞踏会。
偽の招待状を作ってまで忍び込んだのは、表の人間より裏の人間の方が金を持っているのを知っているから。

今やすっかりヨーロッパ中に広がる悪名を背負う高尾は思わず涎が出そうになるほど光る宝石を見つめて、首を振る。
しっかりしなくてはならない。
もうすぐで、ダンスが始まる。
高尾は深呼吸をして気を引き締めなおす。

隠し持った短刀に安心感と自分の立場を再認識した。


「あの、」

「はい?」


突然声を掛けられ、内心ドキリとしつつも高尾は、にこりと笑って対応する。今はお淑やかで妖艶な女性を演じているのだ。

高尾に声をかけたのはかなりの長身の珍しい緑の髪をした男だった。
このような場に慣れていないのか、まだ若い、いや高尾と同じくらいの年齢にも見える彼に高尾は、ほっとする。何というか、素人と言えそうな人だったからだ。 
正直高尾も気を引き締めたのは良いが、予定の時間になるまで目星を付ける以外やることが無かった。
一人でうろちょろするのも格好がつかないと思っていたので声をかけられるのは高尾としては有り難いことだった。


「少し話しましょうか」


ワインを運ぶ召使いや、シャンパンを運ぶ召使い。
シャンパンを二本、慣れた手つきで貰い、高尾は彼に渡した。
いつもと口調を変えて話すのは気持ち悪かったがグッと堪え、彼と話す。

そのうちピアノの音色がホール中に響いて、成り行きで彼と踊ることになった。
高尾は踊ることは容易く出きるが、女役は初めてで少し戸惑いながらも彼に合わせた。
彼はなかなか踊るのが上手い。
高尾の手を取るのも、知らぬ間で高尾は調子が狂った。
話し下手ではあったが、彼と話していると何の目的でこの舞踏会に忍び込んだのか分からなくなるくらい楽しかった。
不器用だけどとても繊細な人なのだろう。と思いながら高尾は彼を見ていた。

これ以上一緒にいたらダメになる。そう自覚するくらい高尾は彼に惹かれてしまい、曲が終わったと同時に彼の手を離した。

第一名前すら知らない相手だ。
仮面舞踏会なので名前を教えることはまず無いが、高尾は名前を知らない人は何より信用しなかった。
席を外そう。そう思ったのに、


「…個室に、行きませんか」

「!」



*



結局断り切れず、高尾は彼が手配した個室に連れ込まれるようにやって来た。
相手は自分が男だと気付いていない。
そして恐らくこの先は、男同士では出来ない関係だ。
そして何より高尾には目的があって、任務があった。
高尾は焦りながらも懐中時計で時間を確認する。
あと、少しで時間だ。
それまでに部屋から出なければならない。そう思っているのに、

高尾が時計を確認している間に鍵が掛けられ、気付けば彼は眼前だ。
ほとんど密着に近い距離で彼は高尾の頬に触れた。
仮面を外され、素顔が露わになる。
一応のため化粧は施されているが、やはり男とバレてしまうだろうか。
高尾はそんなことを気にしながら彼の様子を見ていた。
気付けば心臓が緊張で早く脈打っていた。


一歩引いて彼も仮面を取った。
仮面の下からは幾度となく新聞で見かけた、高尾の大好きなエメラルドグリーンの宝石のようにキラキラ輝く緑色の双眸、
高尾の最も忌まわしく、警戒すべき男の顔、

 
「おま…っ!」

「チェックメイトだ。鷹の目」


チャキ、と安全装置の外されたピストルを高尾に向けるのは、高尾と同じく、いや、全逆で、ヨーロッパ圏に渡る警察組織で最も有名な組織、キセキの世代、と呼ばれる6人の1人、


「……っ緑間」


感情を押し殺しても、なお漏れる悔しそうな声で彼の名前を口にする高尾。
当の緑間は、高尾の額にピストルを向けたまま無表情に高尾を見つめた。


「ここまで気付かないとは思わなかったのだよ。あと、この城は既に包囲されている。抵抗したら殺す。」

「…てめぇ」

「鷹の目、とはよく言ったものだ。案外ちょろいのだよ」


完全に優位な緑間は高尾に率直な感想を述べる。
それは高尾のプライドと、今まで緑間に抱いていた感情をぐちゃぐちゃに抉られたような、酷い言葉だった。


「仲間とともに、かの有名なルイ16世やマリー・アントワネットと同じく断頭台に送ってやるのだよ」


緑間は淡々と話した。
それは先ほど話した時とは違い、饒舌に、まるで台本を読んでいるような、緑間のことを知ってしまった高尾からしたら違和感しか感じない口調で、


「お前とはもっと早く会えていたら、」

「…!緑、間…」


きゃあ!と外から女の嬌声めいた声が聞こえる。警察が乗り込んできたようだ。

バンッ
と高尾と緑間のいる部屋の、鍵のかかった扉が蹴り開けられ、男が数人入ってきた。
呆然と、我を失ったかのように高尾は無抵抗に男たちに後ろで腕を縛られる。
顔には表情が消えていた。
先ほど、緑間が言った言葉が重々しく胸に響く。

もっと早く?
早くっていつ?

生まれながら貧しく、盗みを繰り返して来た高尾はそんなことを考えながら、縛られた腕など気にせず緑間を見上げた。
緑間は悲しそうに顔を歪めながら、ピストルを下げて高尾を見下ろしていた。

高尾は何も言えないまま、強引に部屋から引っ張り出される。

緑間はそれを見送ったあと、静かに高尾の付けていた仮面を握り締めた。










断頭台でこんにちは

(もっと早く出会っていたら、)



*130211

中世ヨーロッパ…一般に5世紀から15世紀、歴史的大事件で捉えるならば西ローマ帝国滅亡(476年)のあたりから東ローマ帝国滅亡(1453年)のあたり

近世ヨーロッパ…ルネサンスから宗教改革以降を近世とする。

最初、中世ヨーロッパパロと書いてあったのですがルイ16世の処刑が1793年、つまり近世ヨーロッパに属するようなので、近世ヨーロッパと明記しました。




← →

戻る

「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -