小説 | ナノ
 
※黒緑表現多数


「緑間くん、少し時間頂いて良いですか。」


終礼後の掃除が終わり、同じ掃除の班の連中は一斉に散らばった。部活に行くものや帰るものなど理由は様々だ。
俺も部室に行こうと鞄を机に載せた時、待ち伏せしていたのか、黒子が近寄って来た。
随分珍しい誘いだった。
何時もより敬語の強い口調に、断れなかった。


「別に構わないのだよ」


了承すると、ほっと口元が綻びるかと思うと、キョロキョロと周りを見渡した。


「緑間くん、座ってください」

「?」


分けも分からず、とりあえず言うとおりに自分の席に腰を下ろした。


「絶対に動かないでくださいね。」

「?」


何をするつもりだ。と言うより先に黒子の唇が俺のを塞いだ。


「!??」


突然のことに黒子を自分から引き剥がそうとした時、黒子の言葉を思い出した。

"絶対に動かないでくださいね。"

果たして今動いたら俺は嘘吐きになってしまうのだろうか。
ぐるぐると頭に考えが巡る。
黒子の思う壺なのかもしれない。

ちゅ、ちゅ、と付けては、離し、付けては、離し、を繰り返す。

何時まで続くのだろうと半ば諦め気味に繰り返される動きに、ふと乱れが生じた。


「くしゅんっ!」


ビチャッと何かが飛び散った。
視界に水滴が入った。
顔にも冷たい液がかかる。


「くっ黒子ぉ…………」

「す、すいません。青峰くんが噂してるみたいです……」

「エスパーか、お前は」


黒子を退かして立ち上がった。
教室を出て近くトイレに向かうと後ろからトコトコと付いて来る。


「すいません。ホントに」

「全くなのだよ」


トイレに設置された手洗い用の蛇口を捻る。鏡を見ると、顔が黒子の唾液で酷い有り様だった。
冬場に冷水は些か抵抗があるが文句を言ってられない。
黒子に眼鏡を任し、顔を洗った。
隣で同じく蛇口からの流水音が聞こえてきた。

蛇口を止め、ポケットからハンカチを取り出そうとする手を黒子に阻まれた。


「何なのだよ」

「これ、使ってください。」


まあ緑間くんの何ですけど。と言う黒子に渡されたのは、練習中に汗を拭うのに使うために鞄に入れてたはずのタオル(のようなもの)だった。


「必要だと思って勝手に漁ってしまいました。すみません」

「別に構わないのだよ」


素直に受け取り顔を拭く。眼鏡の無い視界では黒子の表情は見えなかったが、きっと、いたたまれないだろう。


「これ、どうぞ」


顔を拭き終えると、眼鏡(らしき感触のもの)を手渡され、掛けた。
安定した視界に、ほっと一息吐いた。


「黒子」

「はい」

「さっきのキスは何だったのだよ」


トイレを出て教室に戻る最中、隣を歩く黒子に問い詰める。


「え、あ、分かりませんか?」

「分かるわけが無いのだよ」


黒子は溜め息を吐いた。
溜め息を吐かれる理由は検討もつかないが、恐らく自分のせいだろう。


「好きです。緑間くんが」

「は?」

「好きなんです。僕と付き合ってください。」


驚いた。もの凄く。
しかし一瞬で先ほどとは見る目が変わった。目の前にいる赤く頬を染めた黒子が可愛らしく見えてしまった。


「…どうかしてるのだよ」

「やっぱり、男に言われたら、嫌ですよね。」

「違う。俺が、だ。」

「?」


頭を抱えた。文字通りに、
くしゃくしゃと自分の頭を意味もなく掻いてみても、何も変わりはしない。


「お前を、一瞬、可愛いと思ってしまったのだよ」

「!」


言うと黒子は少し目を丸くした後、嬉しそうに微笑んだ。


「顔真っ赤ですよ」

「うるさい。さっさと部室に行くのだよ」

「あ、待ってください。早いです」


クスクスと笑う黒子に耐えきれず早足で教室に向かう。後ろから駆け足に近づいてくる足音に、より一層大股になった。

教室に着き鞄を手に取った時に、ドン、と何かが背中にぶつかった。
腹に細いものが回る。


「捕まえました。」

「……〜っ黒子」

「何ですか?」


振り返って、黒子の顎をクイッ上げた。
また目を丸くさせる黒子の唇に、自分の唇を押し付けた。
応えるように黒子の腕が首に回る。


「僕、幸せです」


軽く触れ合っていたものを離すと、黒子が花が咲いたように、言葉通り幸せそうに微笑んだ。




*




部室に着くと中から、ぎゃあぎゃあと聞き慣れた声が聞こえた。
しばらくして静まるかと思えば、またぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
さっきから隣に居る黒子を妙に意識してしまって、もどかしさでいっぱいだった。


「緑間っちに…」


中から自分の名前と、何とも不愉快な台詞に痺れを切らし扉を開いた。
驚いた顔の黄瀬の、頬を摘んで気を紛らわした。
黒子が青峰に話しかけるのが視界に入る。それに気づかないフリをするのに必死だった。
一瞬でも黒子のことを考えてしまえば、自己が保てない気がした。
どきどき、と休む間も無く心臓が煩い音を立てる。
目の前の黄瀬の喚き声が耳に入らないくらい、胸に何かがギュッと詰まる感覚。少し息苦しい。
黄瀬には悪い気もしたが、胸が鳴り止むまで暫くは、騒いでもらおう。










心を奪う魔法の言葉

(君の心、頂きました。)
(全く…勘弁してほしいのだよ)
(ホントツンデレですね。)
(煩いのだよ)




*130121

一個下の黄青の話しの裏話的な。


タイトルは瑠璃様よりお借りしました。


← →

戻る

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -