小説 | ナノ
広い体育館を埋め尽くしていた熱気も冷めきり、入りきらないほど多い部員も今やすっかり帰り、静寂が辺りを包んだ。

何時もは皆、練習後も自主練をしているが今はテスト前。自主練に規制は無いが、皆素直に帰路へ着いた。

俺も、そのつもりだった。


「青峰っち…」


学校指定の革靴に履き替え体育館を横切る際に見えた馴染み深い人影。
好奇心に負けて中を覗くと、中に居たのは、青峰っちと黒子っち。

黒子っちは青峰っちの前では良く笑う。結構分かりやすい人なんじゃないかと、最近思う。青峰っちも黒子っちには良く笑いかける。俺には全然なのに、むしろ鬱陶しそうに、あしらわれる。


「狡いッスよ、黒子っち…」


俺だって青峰っちの近くに居たい。笑いかけてほしい。そう願ってはいけないだろうか。黒子っちの立場が凄く羨ましく感じる。俺が黒子っちになれないのは分かっているし、成ったとしても、それは黒子っちの真似事をした"俺"だから、結局青峰っちの態度は今と変わらないだろう。どんなに変わろうとしたって"俺"には変わりないのだから、


「良いなあ…黒子っち」


2人の会話が聞こえないか、と全神経を耳に集中させる。ボソボソと聞こえてくるが、何を言ってるかまでは分からなかった。


「な〜にをしてるのだよ!」


ポンっと両肩に何かが触れる。急に外部からの刺激に跳ね上がる肩。
気付くのに数秒かかったが、肩に触れた物は、緑間っちの手のひらだった。


「み、緑間っちスか…」

「お前は不審者か。さっさと帰るのだよ」


緑間っちは極稀に悪戯なのかは知らないが、俺を驚かそうと気配を忍ばせて背後から近づいてくる。こういう辺りは、この人も普通の中学生というか、何というか、微笑ましい。


「緑間っちは気にならないんッスか、あの2人」


と、楽しげに話す青峰っちと黒子っちを指差す。すると緑間っちは口角を上げニヤリと笑った。


「知らないのか。あの2人はお前の今後の成長について毎日話し込んでいるのだよ」


2人とも弟が出来たみたいで嬉しそうなのだよ。と続ける緑間っち。
顔に熱が一気に集中した。火照って蒸気が出るんじゃないか、と心配になるくらい熱い。恥ずかしさに、その場にしゃがんで顔を埋めた。
「俺、ただの馬鹿じゃないッスか…」


勝手に嫉妬したり、ああでも、嬉しいな。勝手に頬が緩む。にやけてしまう。


「…今頃気付いたのか。お前は前から馬鹿なのだよ」

「ひど!!」


見上げると緑間っちが楽しげに笑っていた。







こんなにも温かい愛で


(幸せ者だなあ)



*130108


memoから持って来ました



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