小説 | ナノ
※年齢操作あり
「変わってるね」
と言われて生きてきた。
母親にも、近所の人にも、友人にも、ずっと言われてた。
否定したかったが、一体何処が変わってるか分からない俺は既に変わっているのかもしれない。
母は怒る度に、本当に変わってるね。誰に似たのかしら。と言うし、中学の時も良く言われた。ある人は俺の言葉に驚いて、戸惑いがちに、ある人はストレートに、
みんな「変わってるね」と言った。
変わってるとか変わってないとか、どうやって区別するのかは分からないが、皆が口を揃えて言うのだから間違い無いと思う。
でも何処が可笑しいかは未だ分からないまま。
話すと怒る母を見てからは、相手の気分を害さないため、必要最低限のコミュニケーションしか取らずに生きてきた。
その内、心は皮を被ってしまって、だんだん「素直」と言う言葉の意味が分からなくなった。
素直な意見を述べれば「変わってる」と言われる。
素直に行動をすると「変わってる」と言われる。
だからなるべく、皆と同じ動作をしてきた。
それでも俺は変わり者だった。
皮を被って閉じこもった心は、どんなに楽しい思い出も、普通の日常と何ら変わりない物と同等になってしまって、毎日毎日、息苦しさを感じながらも、自分の素直な心を隠してきた。
完全に麻痺した感情論。
一生このままだと思ってた。
「緑間!」
「…誰なのだよ」
「俺、高尾。高尾和成。」
突然現れた男は、高尾と言って、人の中に土足で躊躇いなく入って来た。
どんなに追い返そうとしても、変わらない笑顔でやってきて、邪険に扱えず、気付いたら隣に居た。
何なんだ、何なんだ!何なんだ!!
被ってた皮を無理やり引き剥がそうとする高尾に恐怖すら覚える。
何年も被り続けたものを、いきなり脱げと言われて脱げるほど、勇気のある奴では無い。
不安と恐怖を感じながらも、高尾と別行動する日など零に近かった。
「俺ばっかり喋って真ちゃん全然話さないよな。」
「そうか?」
「うん。真ちゃんもしかして聞き上手?それとも話し下手とか?いや話し下手では無いよなー真ちゃん頭良いから話す内容も簡潔で分かりやすいし、」
ペラペラと饒舌な高尾は、俺が何も言ってないのに、どんどん話しを進めていく。
「話すと、相手の気分を害してしまうのだよ」
「は?」
本当の事を言ってみると、高尾は思った通り、最初固まってから、ヒーヒーとお腹が痛くなるまで盛大に笑った。
「んなことねーよ。俺、真ちゃんの話し超聞きたい」
柔和な笑みを浮かべた、高尾を見ると拒否出来なくなる。知ってるのか、知らないのか、高尾はよく、俺の苦手な柔らかい笑みを浮かべる。
「しかし、高尾の気分を害す訳にはいかないのだよ」
「なんで?」
俺が気分悪くなるとは限らねーじゃん。と呆気無く言われれば、反論出来ない。
「…俺は変わり者なのだよ。そんな奴が口を開くと可笑しなことを言ってしまう」
「…まぁ、真ちゃんは変わってるよね」
俺の言葉に肯定する高尾に、焦燥感を感じた。頭がパニックになって嫌な汗が額に伝う。
みんな変わり者の俺から離れて行った。もしかしたら、高尾も遠く離れて行ってしまう気がして、怖い。
いつの間にか孤独感なんて吹き飛んでいて、高尾に縋るような生活をしてきたのかもしれない。
"変わり者"とだけで1人で居た俺には、不完全な関係の大事な人の欠乏を酷く恐れていた。
「でも今更じゃね?んなの初めて会った頃から分かってたし、真ちゃんと居ると楽しいから別に変わり者なんて気にしないし、」
俺は真ちゃんの変わった所結構好きだぜ?
と戯れ言を言えば優しく微笑んだ。
「しし真ちゃん!?」
大丈夫?と言って、手のひらで俺の頬を包み込んだ。驚いて高尾を見ると、心配そうに俺の顔を伺っていた。
「真ちゃん泣かないで」
額と額を合わせて瞼を下ろした。
どうして高尾は俺に優しく接してくれるのだろう。どうして高尾は俺と一緒に居てくれるのだろう。考え出せば溢れるほどの疑問。
優しい声色で、真ちゃんと落ち着かせるように繰り返し呼ぶ高尾。
ずっと前からその優しさがもどかしく、こそばゆかった。
「高尾は何で俺と一緒に居てくれるのだよ…」
「そんなの、真ちゃんが大好きに決まってるからだろ?」
頬を伝う涙が高尾の指や手の甲も濡らした。あぁ、あとでハンカチを貸してやらねば、高尾はたまに忘れてくるから。
「そうか」
「うん」
「高尾、ありがとう。」
「どう致しまして。」
***
重たい瞼を持ち上げると、ぼやけた視界に、ゆらゆらと陽炎のように人影が見える。
「真ちゃん、おはよ」
「随分昔の夢を見たのだよ」
「へぇ、何時の?」
「高1だ」
寝起きの気だるさが残る身体を起こし、眼鏡をかけると、高尾は俺に跨がり、ふわりと優しく抱き締めた。
ソファで寝てたせいか、身体のあちこちが痛い。
「七年も前の夢見たの?」
「あぁ。」
高尾の顔には、聞きたい。とハッキリ書いてあった。
目をキラキラと輝かせて、子供のように俺が口を開くのを待つ。
「教えないのだよ」
「えーケチー」
高尾は、ブーブー文句を垂れている。
高尾、お前は知らないだろう?
あの時俺は初めて、嬉しい。という感情を自覚出来たのだ。
高尾のお陰で、俺のモノクロな世界にも、色が着いたんだ。
何度お礼をしても足りない位、俺はお前に救われたんだ。
高尾、お前は知らないだろう?
今はまだ、知らなくて良いのだよ。
もっともっと年を取って、
もっともっと一緒に時を過ごして、
2人とも、お爺ちゃんになったら、その時は、この話しを高尾にしよう。
いっぱいお礼を言おう。
笑い話しになるだろうか。
「真ちゃん?どったの?」
「いや、何でも無いのだよ」
黙り込んだ俺の顔を心配げに覗き込む高尾に微笑みかけた。
幸せすぎて泣いちゃうの
(沢山貰った幸せを何時かキミにも捧げたい)
*121225
タイトルは無限様より
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