小説 | ナノ
※社会人パロ
押し入れの中身を1つずつ取り出す。
その中に1つ、他のとは比べものにならない重たいダンボールが2つあった。
「何入れてんだっけ」
ダンボールには何も書かれてはおらず、興味本位で蓋を開ける。
「!」
中から出てきたのは数年前まで使っていたバスケットボールに洗って仕舞ったであろうバッシュ、綺麗に畳まれた二種類のユニフォーム。
もう1つのダンボールを開くと中から出てきたのは恐らく小さい頃からのであろう何冊にもなったアルバム。
「全部残してたんだなー」
バスケットボールやユニフォームを触ってみる。久しぶりの感覚に心が弾んだ。
一番最近のであろうアルバムを取り出し、中を開いてみた。
1ページ目には中学の卒業式の写真があった。
ページを進めて行くと、高校の入学式、文化祭や部活動での写真など、高校時代だけで沢山あった。
写ってる写真のいつも俺の隣にいる、緑色の頭。俺が肩に回した腕を不服そうに見ながら写真に映る姿は何枚も何枚も見つかった。
先輩の怒った顔や、合宿の息抜きにした花火、誰が撮ったかも忘れたが確かに沢山写真は残っていた。
「緑間ばっかだな…」
時折緑間の単体の写真もあった。
きっと俺が撮ったであろうその写真に指で触れて懐かしさが蘇る。
会いたい気持ちが募る一方、忘れなければ、と感じる。
緑間は大学生の時、突然目の前から姿を消した。
当時俺らは付き合っていた。
突然の恋人の失踪に、俺はパニックに陥った。
緑間は海外に行っていた。
何も言わず、何も残さず、
それを知った時、捨てられたんだな。と悟った。
緑間の失踪から数年、やっと忘れられたのでは、と思うとまた思い出す。
たまにしか見せない柔らかい表情から、優しい匂い、太い筋肉質な腕、大きな背中、長い指、優しい声、全部全部思い出してしまって、苦しい。
これ以上見てられず、アルバムをパタン、と音を立てながる閉じる。
淡々とアルバムをダンボールに直して押し入れを雑巾で拭いて、掃除機で埃を吸う。
要らないものと分別しながら入っていた通りに物を仕舞っていった。
楽しかった思い出も今や苦々しいものに変わってしまった。
それでも涙は枯れてしまった
(どんなに苦しくても泣きすぎてしまってもうカラカラなの)
*121216
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