小説 | ナノ
秀徳での3年間はあっという間で、気付くと最後のWCも終わって、俺と緑間ら3年は引退した。
緑間はそのあとすぐに推薦で大学が決まった。
理系が得意だから医者とかにでもなると思っていたのだが、想像とは裏腹に緑間は法学部へ行くらしい。
意外だった。
俺は推薦でないので、センター試験に備えて勉強中だった。
緑間だって勉強は1年や2年の頃以上にしてるけれど。
緑間は引退後もよく部活に顔を出していた。
少し意外だった。
なんとなく。
何故意外に思ったか分からないけど。
緑間が今日も顔を出すようだったので、俺も着いて行くことにした。
よく考えたら引退して始めてのことだ。
緑間が顔を出すや否や2軍の1年生が1人寄ってきた。
緑間もそれを良しとしているみたいだった。
「ちゃんとトレーニングはしているのか」
「はい!先輩に言われたとおりに毎日欠かしてないです」
「ならいいのだよ。指摘したフォームのおかしなところも治したか?」
「言われた通りにしてるんですけど…なかなか昔の癖が取れなくて」
後輩の1年が恥ずかしそうに笑うと緑間も、仕方ないのだよ、と言って優しく笑っていた。
昔より随分笑うようになったなあ、と思う。
それから緑間はほぼ付きっ切りでその子の面倒をみていた。
その子は素直で緑間の言われた通りに動いていた。
返事が明るくて、とても楽しそうにしている。
俺の周りにも後輩がいっぱい来て、俺達慕われてたんだなあ、と思った。
「真ちゃーん、そろそろ帰ろーぜー」
「ああ。」
時計を見ると、随分時間が経っていてた。
体育館の端のゴールで、指導をしていた緑間へ声をかけた。
「ありがとうございました」
「また来るのだよ。俺がいない時にサボるなよ」
「サボリませんよ!」
いつの間に冗談が言えるようになったんだろうね。
緑間は嬉しそうに俺のとこまで来た。
帰り道、3年間、鞄の中身が軽かったことは殆どない。
でも今は昔と違う。
紙の重みだ。参考書やノートとかの紙の重み。
昔は水筒やら着替えやらでいっぱいだったというのに。
少し淋しく感じた。
「あの後輩に随分肩入れしてんだなあ」
「嫉妬か?」
「ちげーよ!ただ、なんでかなって思って」
「…あいつはまだ2軍でSGとしても頼りないやつだけど、1番見込みがあるのだよ。飲み込みが速いし、根性もある。次に俺の代わりに秀徳の攻撃力になるのはあいつだ。あいつ以外ありえない。なら、俺がまだ卒業する前に、あいつの能力を伸ばしてやらなければならない。」
「随分期待してるんだな」
「期待、も勿論ある。だが、俺たちの先輩や俺たちが守ってきた秀徳を、守りたいのだよ。王者の名前も、輝かしい戦績も、俺達がいなくなった途端に崩れるのは許せない」
緑間は鼻の天辺を赤くして、俺の方を見て微笑んだ。
いつからそんなに優しい笑顔ができるようになったの。
「…真ちゃんってさ、誰よりも秀徳好きだよね」
「な!ば、馬鹿を言うな。」
「あの後輩のことも気に入ってるんだな。」
「……あいつは人の話しを素直に聞けるいい奴なのだよ」
「む、やっぱ妬けるわ。嫉妬かもしんねー!」
複雑な気持ちだ。
緑間が秀徳のためを思ってくれてるのは嬉しい。
1年の最初の頃と随分変わったから。
でもなあ、
「もーちょっと俺にも構えよな!拗ねるぞ」
「……今週の土曜は予定がないのだよ」
「俺が予備校だもん」
「日曜も空いてる」
「行く。お前ん家」
「ああ。たっぷり構ってやるのだよ」
緑間は俺の手を掴んで自分のコートのポケットへ突っ込んだ。
ポケットの中は温かい。
「今はこれでいいか?」
少し不安げに俺の顔を覗き込む緑間の顔が綺麗で恥ずかしくて直視できなかった。
「…満足です」
俺の応えに緑間はまた嬉しそうに微笑んだ。
ほんと、どこでそんなの覚えてくるのやら。
魔性の緑間スマイルに俺の心臓はついていかないよ。
「お前のせいだぞ。こんなに笑うようになったのは」
「…くそ…俺のバカ」
雪が深々と降る夜、緑間は俺にキスをした。
131229
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