小説 | ナノ
「高尾、」
振り返ると同時に、ちゅ、と軽いリップ音、
ざわっ、と混乱する周りと俺を余所に真ちゃんは至極当然のような平然とした態度で俺を見る。
「どうしたのだよ」
「どうしたのだよじゃねーよ。」
わざとらしく眉間に皺を寄せて真ちゃんを睨むと真ちゃんは訳が分からないといったような怪訝な顔に、我慢ならない。
「ここ、ショッピングモール!!」
「だから?」
俺は高尾にキスしたくなっただけなのだよ。と理由にならない子供みたいに我が儘な言い訳をしながら棚に並べられた商品を手に取る。
はぁ、と溜め息混じりに呆れ顔をしてみても真ちゃんは反省の色もない。
真ちゃんはしたくなったらT.P.O.なんて関係ない。何時でも何処でもキスをする。
まだ軽いキスだから良いもののエスカレートしたらどうしようと何時も悩む。
真ちゃんのT.P.O.総無視のキスのせいで付き合いたて2人で話した、高校生活三年間、2人の関係を隠し通す。という誓いは僅か1ヶ月あまりで学校中に広まり、今や名物カップルというか見世物のようになっている。
別に見世物にされても真ちゃんが気にならないなら別に良いが、やはり人の目は気にして欲しい。
今も先ほどの突然のキスにより周囲の目線がジロジロこちらに集まる。
時より耳に入る嫌悪感の混じった言葉を聞く度、ずきずきと胸が締め付けられるように痛む。
「高尾、」
「ん?」
「大丈夫か。さっきから上の空なのだよ」
「あ、ヘーキヘーキ」
真ちゃんが少し屈んで俺の顔を覗き込む。目が合ってドキンと胸が跳ねた。
「(くっそ適わねぇ…)」
悔しさと愛しさに頬が変に緩んだ。
どんなに我が儘でも真ちゃんに勝てる気がしない。火照る頬を両手で軽く叩き熱を放出させる。
真ちゃんが、行くぞ。と言い俺の指に指を絡ませた。
また世間体を考えない行動。
でもその堂々さが堪らなく好きな俺に真ちゃんに勝てる可能性は1ミリもないのかもしれない。
*121202
≫一部修正121203
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