小説 | ナノ
拝啓
綺麗な桜も咲き、随分暖かくなってきましたね。とても春を感じさせられます。そちらは、どうでしょうか。と言っても、大して距離はありませんが、
彼は自由です。
気分が向かないと動かないし、
とにかく気分屋ですね。
彼は練習には殆ど来ませんでした。
でも試合の時は僅か1Q分で相手チームの心を折ってしまうほどの実力者であるのが厄介な点でしょうか。
猫は慣れた人にしか近づかない。
時折、人慣れした、甘えたな猫もいるが、彼は前者です。
慣れた、自分が好きな人物にしか懐かない。しかし不器用なため伝わらないのが、可哀想なことですかね。
「おい、良」
「ひっ、すいません!」
彼は僕に随分懐いてくれたようです。
去年のWC以来、少しずつ練習に来てくれるようになりました。
彼は相変わらず強いです。
優雅で、繊細で、しなやかです。
今、戦ったら勝てる自信があります。
今度は負けません。
また戦いましょう。
「良、何笑ってんだ。」
「すいません。」
「お前が、1on1しようっつったんだろ?」
「そうですね。」
体育館にはバッシュの音がよく響くようになりました。うちは、相変わらず個人競技のようなプレー法です。それは淋しいような気もします。おそらく、今の彼なら僕と同じことを、ほんの少しでも感じてくれてるんではないでしょうか。
「弱ぇなあ、良は」
「す、すいません!」
少しずつではありますが表情も柔らかくなってきました。
貴方が望んでいた彼に戻ってきたのだと思います。
負けを知った彼の、悲しそうな、嬉しそうな、複雑な表情は今でも忘れられません。
あの時負けたのはとても悔しかったですが、彼には必要な負けであったと感じています。
マネージャーの桃井さんも同じことを思っているようです。
彼女からと、雰囲気で察した彼の今と昔の差は何となく理解しているつもりです。
「あ。そーいや、これみろよ。すげーだろ、マイちゃんのおっぱい」
「ひぃっ!み、見せないでください!!」
「んだよ、男かよ、それでも」
僕に彼の相手は務まりませんし、相棒という関係には程遠いですが、安心してください。
きっと、いつか、皆でバスケを出来る日がくると、思っています。
その時は、僕も誘って頂けたら嬉しいです。
敬具
「よかった、」
「ん?何が」
「ふふ…火神くんには秘密です。」
「?」
131010
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