小説 | ナノ

ガタガタの道、自転車ではとても漕ぎづらい、ガタガタの土の上に石がゴロゴロ転がった道。それは道と呼ぶには何とも不恰好である。そんな道とは呼べぬ道を、高尾は自転車を漕いでいる。もちろん後ろには自転車に括りつけたリアカーがついていて、リアカーには眉をひそめる緑間が乗っていた。恐らく少しガタガタとした道を進んだ反動で揺れるリアカーに酔っているのだろう。緑間はあまり乗り物が得意でなかった。

「真ちゃん、もうすぐだから。辛抱してね」
「お前こそ、大丈夫か」
「うん」

緑間と高尾は、森、というところを奥に奥に進んで行っている。
目指すは頂上だ。

「真ちゃん、こっからはリアカー通んないかも。」
「歩くか」
「そだね」

高尾と緑間は互いに自転車、リアカーから降り、手をキツく繋いで歩き出した。別に今から心中したりするわけではない。2人は誓いに行くのだ。永遠に、いのちが尽き果てるまで傍に寄り添い合うことを、
裏切ったりしない。離れたりしない。見捨てたりしない。放っておいたりしない。
互いの全てを尊重し、愛し合うために。

20分くらい歩いただろうか。
普通の高校生のように終わったばかりの文化祭のことや、部活のことを楽しそうに話し合っていると、あっという間に時間なんて過ぎ去っていた。

「着いたね」
「本当に合ったんだな」
「思ったより綺麗じゃん」
「そうだな。」

2人の目的地は森の中の小さな教会。
ここで2人は今日、まさに今から、2人っきりの結婚式を挙げるのだ。仲人も、誰もいない、恐らく誰にも祝福されない結婚式を、今から挙げようとしている。

2人で同時にドアを開いた。そして、腕を絡めてバージンロードを歩く。

「あなたはこの者と結婚し、神の定めに従って夫婦となろうとしています。あなたは、その健やかなときも、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、そのいのちのかぎり、堅く節操を守ることを約束しますか。」
「約束します。」

高尾は緑間の手を取って、まるで台本を読み上げるように、スラスラと、かと言って棒読みではない、酷く感情深い優しい声色で言った。緑間は少し照れているのか、顔を赤らめながら答えた。

「あ、あなたはこの者と結婚し、神の定めに従って夫婦となろうとしています。あなたは、その健やかなときも、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、そのいのちのかぎり、堅く節操を守ることを約束しますか。」
「約束します。」

次は緑間が少し照れながらも言った。高尾は目を閉じて、優しく微笑んだ。
そのあと、スルスルと、緑間の左手に施されたテーピングを慣れた手つきで外した。
巻かれていた包帯は、汚れた床にひっそりと落ちた。そして、テーピングの代わりと、高尾が学ランのポケットから取り出した指輪を、緑間の左手の薬指にはめた。ピッタリと収まった指輪は何だか得意気にも見えた。

そのあと用意していた口紅を緑間の唇にゆっくりと塗る。緑間は緊張して、キュッと目を閉じた。真っ赤な口紅は緑間の白い肌に良く映えており、高尾は優しく緑間の頬を撫でた。それに安心してか、緑間が、そおっと瞼を上げた。

「真ちゃん、愛してるよ」

高尾は、そっと緑間の唇に口づけをした。
ルージュにそっくりな、真っ赤になった緑間が自分の頬を撫でる高尾の腕に触れて額と額を合わせ、こくっと一回頷いた。

高尾はまた微笑んだ。

次は緑間が、高尾の頬に口づけをした。




131006



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