※今回は閲覧注意です。
若干黒いメフィスト様がご降臨されています。健全。
その日アマイモンは
メフィストの部屋にお使いに来ていた。
差出人は藤本獅郎
なんでもメフィストに
直接渡して欲しいらしい。
だから執務室と呼ばれる部屋を
聞いてやって来たのだが…。
「兄上、これシロウからです。なんでも直接渡してきて欲しいと言ってました」
「そうか。悪いが…」
そう言ったメフィストは
珍しくマントを着ていない。
これからシャワーに行こうとしていたらしい様子を見て、アマイモンは口を開いた。
「…ああ、お風呂ですか?
じゃあ、ボクはこれで」
気遣わし気に見える無表情を見下ろして、メフィストは口角を上げる。
「いや、すぐに戻る。
何なら開けててもいいぞ」
「わーい。あ、兄上もごゆっくり」
「ああ…そうさせてもらう」
メフィストは静かに笑うと弟の頭をひと撫でして部屋を出ていってしまった。
騎士團関係者が居ようものなら絶句したであろう穏やかな微笑み。しかしその特殊さを、弟は知らない。
兄上に頭を撫でられる。
たったそれだけのことなのに、アマイモンはくすぐったくなって妙に落ち着かない。
兄の椅子でクルクル回るその姿は見た目よりもずっと幼く見えただろう。
(これ物質界の影響かな…)
いつだったか、シロウがメフィストが好きなのか?って聞いてきた事がある。
その時は何も考えず「はい」と即答し
…じゃあ俺は?とも聞かれたので
やはり「はい」と即答したら
それを聞いていた兄は何故か苦い顔をして、そんなボク達を見て彼は笑い飛ばしたものだけれど。
ボクは首を傾げた。
どうやら
『好き』には何個か種類があるらしい。
でも、こんな穏やかで嬉しいモノがアマイモンは好きだった。
もしこれが兄やシロウの言う「好き」ではなかったとしても、どっちでもよかった。投げやりな意味ではなくて。
この感情が好きなのか、それともそんな感情を与えてくれる兄やシロウが好きなのか、アマイモンにはよく判らなかったけれど。
この雰囲気をアマイモンは気に入っていた。
「ああ…と、シロウの箱…」
同じく机に放り投げた箱を取り上げる。
白い何の飾りもない箱は小さいながらも少し重たかった。
僅かにガチャガチャと音がするところを見れば、もしかしたら工具か何かが入っているのかも知れない。
「お菓子だったらいいのに」
叶いそうにない願望を呟いたアマイモンは箱を開けて――……首を傾げた。
(アレと会うのも久しぶりか)
あの男のお使いと言うところがやけに気にはなったが、じきに分かるだろうと歩を進める。
きっと奴はなにかと私に懐くアマイモンを私とくっつけてからかいたいのだ。
この恋愛というにはあまりに淡い感情に、あの男は本人よりも先に気づいた。
それはそれで溜め息ものだが忘れかけていた感情に気付かせてくれた彼には感謝する。
だからと言ってアマイモンをどうこうするつもりはない。我々悪魔には禁忌と言ったような概念は無くとも。外から言われて行動するなど少なくとも紳士ではない。
それはメフィストの中の不文律だった。
だから部屋に戻ったメフィストの目に飛び込んできたものにめまいがした。
「あ、おかえりなさい兄上」
弟の無表情が今は恐ろしく見える。
「アマイモン…なんだソレは」
メフィストは蒼白になりながらも務めて平静な声を絞り出した。
「シロウの――……」
「ああ、わかった
…何も言わなくていい」
床に座り込んだアマイモンの周りに散らばったものにメフィストは本気で殺意さえ覚えた。
しかし当のアマイモンは不思議そうにメフィストとそれらを見比べている。
ちょこん、と首を傾げた姿をメフィストは見逃さなかった。
「アマイモン…コレについては…知っているのか?」
「いいえ
…悪魔のオブジェでしょうか」
弟の言葉にメフィストは
たっぷりと数秒は考え込んだ。
「兄上?」
「…なるほど、健全な回答だ」
「え、違うのですか?この青紫の気味悪い感じ…ヒトの悪魔の概念はいつもこんな感じだったかと思ったのですが」
「ではこの使い方…否、何でもない」
「使い方があるのですか?」
「やめろ、触るな、穢れる」
「ボクは悪魔ですよ、兄上」
実際にまじまじと眺め始める弟をメフィストは全力で止めた。
白く細い指先と弟曰わく『悪魔のオブジェ』の青紫とのコントラストに、眩暈がひどくなった気がする。
「アマイモン
…奴は…何か言ってたか?」
酷く疲れた兄の声にアマイモンは心配になったがすぐさまその時のことを回想した。
「え――と…、疲れが?メフィストは溜まってるから発散させたらどうとか…って言ってたような…あれ?あれはボクに言ったのでしょうか?」
「知るか」
あの似非聖騎士め。と
メフィストの口角が釣り上がった。
「疲れが?」
「はい」
「その…『溜まっている』と?」
「そう溜まっていると」
「たまには息抜きさせてやれと言われました…兄上?」
「…ほう、息抜きさせてやれ?」
淡々と答えていたアマイモンはそのときになって兄の異常に気付いて――……青くなった。
「抜かせてやれ?お前に?お前にか、アマイモン?ははっ、面白い冗談だ」
「は…はい、そんな感じのことをシロウが――……」
「…シロウが。」
殺気ともまた違う冷たい冷気を纏い始めた男に悪魔の本能が警告した。
「あ、兄上?コレとか兄上のお好きなメフィストピンク…」
努めて明るい声を出して手短にあったものを手に取ってみる。
「なんだ…?」
兄の気が逸れたと思った瞬間、両手で頬を掴まれた。グイッと痛い程の力で無理やり上を向かされ、視界を奪われる。
「なんだ…知りたいのか?」
見たこともない妖艶な笑みを浮かべる男にアマイモンの背中が粟立った。
「こんなのに
興味を持つなんて…悪い子だ」
低く掠れた男の声。
甘美な毒を思わせる低音にくらくらする。
「悪い子には…お仕置きだな」
「あ、あに………ぁ」
呼びかけようとして、アマイモンは自分の声も熱に掠れていることに気付いた。心臓が五月蠅いくらいに騒がしい。
唇が触れ合うその瞬間――……
コンコンと。
「フェレス卿、よろしいでしょうか」
扉の前で響いた声にアマイモンは我に返った。
常より姿を見られるなと、厳命されている。反射的に身を翻したアマイモンは窓を開けようとして、失敗した。
窓、その鍵にメフィストの指が掛かっていたのだ。
磨き抜かれたガラスに映る兄の姿は何故か不機嫌そうに見えて。その視線が妙に怖いとアマイモンは思った。
その間もノックは止まらず、
気配は一向に去らない。
動こうにも動けず、アマイモンは途方に暮れた。
「あの部下…後で殺してやろう」
耳元で囁かれた物騒な言葉。
その言葉を理解するより早く感じた痛みにアマイモンの肩は大きく揺れた。
「フェレス卿?ヴァチカンより至急お耳に入れたいご連絡が―…」
「今いく」
するりと兄は部屋を後にして。
ひとり残されたアマイモンは一拍の間ののち耳元を抑えた。
「な…っ…!?」
(兄上に耳を咬まれてしまいました)
メフィで黒いことをやってみたかった。
しかし兄上の色気が上手く表現できない。アマがイロイロと幼い?いいえ、だから教え甲斐がありますとか妄想炸裂しているシキです。何故か獅郎さんが生存してます
[novel-top]