小説 | ナノ




色とりどりのセロファンに透かしてみえた、兄上の姿は、まるで夢のように美しく、優しげだった。
パラパラと微かに音を立てて落ちてくる飴玉を…もう、ボクが口にすることはないのでしょう。





【終着駅は貴方の羽根の】






大きな窓は何度か壊してしまったことのあるもので、つい先日のことなのに今となっては遥か過去のことのように思えるから不思議だ。

夕陽を逆光に、兄上の表情は読めなかったけれど、もう。

前のボクなら兄上の表情が読めないことに不安になって、癇癪さえ起こすこともあったと言うのに。

…ああ。ボクはいまとても穏やかだ。


眩しくて苦しくて悲しくて…でも、爽やかで穏やかで晴れやかでもあって。ありとあらゆる感情が去来する僅か一瞬の出来事にさえ、ボクが取り乱すことはなかった。

(ああ、兄上…
ボクはこんなにも遠くに来てしまった)


ボクの生命は、いつの間にか兄上に追い付き、ボク達の知らぬ間に追い越していたらしい。

決して戻れない不可逆の旅路の
その一歩の重みを理解するのは
ボクらが悪魔だからなのだろう

もう、振り返った兄上の姿よりもずっと確かにボクはボクの果てをみる。いつか夢見た、大地の果てはすぐそこだった。


「こちらへ、アマイモン」

「私のそばへ」

「お菓子を出してやろう」


もう大好きな傍へは行けない事
戻れない距離がただ寂しかった


不可逆な魂の辿る途に、
ボクはこれからの兄の旅路を思った。


「アインツ」 大好きです。…だから

「ツヴァイ」 ありがとう。…どうか

「 ドライ 」 さようなら。お幸せに


その一瞬、雲間を裂いて一際輝いた夕陽に兄上の姿が輪郭を無くした。…ああ、なくしたのはボクの方か。





















「―…アマイモン?」

兄上の声が聴こえて、確かに流れ出した日常を、ボクの意識は拾いました。小さくため息を吐いた兄上の姿は本当にいつも通りで壊れない日常とか不変があるならそれはこういったものがいいと思ったのは確かです。おそらく気分を害したのでしょう、飴玉を消そうと掲げられた指先、その音の鳴るまでの僅か一瞬の間隙にさえボクはいとおしくなりました。飴玉は消えてしまったのか、その指先が本当に鳴ったのかどうかさえ、もうボクは知らないのですけど。


【おかしな夢をみましたよ、兄上】

…お話してもよいですか?
って…兄上?




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