小説 | ナノ

「あ…」

小さく声をあげて
意識を失った弟を見下ろしている。


【翼下、緑花】


いつもよりも
ずっと白い顔はひやりと冷たく、恐怖か痛みか、寒さを訴え続ける身体は小刻みに震え続けている。

それでも抵抗が無くなったことに安堵して、深い溜め息が口をついて出た。

そうして、自嘲する。

自分は何をしているのか、と

相手は誇り高い地の王である。

同時に私の愛しい弟でもある。

「とうとう嫌われたかもな」

兄弟の中でも唯一大地を司る弟は

奔放で礼節よりも自由を重んじる。

兄に呼ばれて物質界に来て

窮屈な憑依体にも我慢して

でも

勉強と称しては物見遊山で

末の弟のことだってそうだ

1度目は遊園地で

2度目は森林公園

3度目は―……

「所詮、兄の名など…この程度のもの」

憑依体には耐えれても

遊びの邪魔は許せない

「お前を止めるのに、殺してしまっては本末転倒も甚だしい」

そこで
否、と囁くもうひとりの自分がいる。



(弟は止まらなかったではないか)

(あれはお前の従順な駒ではない)

(あれは自由で其れを奪うならば)

「私が殺す前に、自害するかもな」


嗚呼、本当に本末転倒だ。

しかしどうして許せよう。

私によって、私にだけに。

もう目の前で失うことだけは

2度とは看過出来ないだろう

だから悪魔の力に枷を付けた

アマイモンの意思をねじ曲げ

永遠に、捕らえて離さないと

「悪魔が恐れるとは滑稽な」







それでも

「あ…あにうえ」

その袖口を掴む指先を見つけて、堪えきれずに悪魔は笑い声を上げた。


[たったそれだけのことなのに、
狂喜する自分が滑稽だったのだ]



ダメだ。カッコいい兄上が書けない。

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