小説 | ナノ

僕には沢山の兄弟がいる。
その兄弟全て、母親が違うのだと聞いたことはあったが、幼かった僕には他の家族との違いがよく分からなかった。

その事を話すと兄上は不機嫌になったし、アスタロトは何だか悲しそうな顔をするから、無意識にその話題を避けていたのかも知れない。

僕の母は既に亡くなっていた。父が言うには結構な美人だったらしい。他の兄弟の母親は大抵存命しているらしいので、僕の様な子供は父上にとって珍しいのかも知れない。

そんな僕らの父はお金持ちだ。

政財界の悪魔とも魔王とも呼ばれたりするらしい。良くわからない沢山の会社を持っていて、沢山のお店を経営している。

行動がともかく派手な人だとは僕の感想だけど、兄上曰く、酒と金と女の典型的な遊び人らしい。

そうして、僕の家には、数多の兄弟の中でも父の特に「お気に入り」の子供達が住んでいる。父の仕事のひと達は「本宅」と呼んではいたけど、実際、家で父を見かけることは稀だった。




そんな家の僕は、他の家の子供達には異質に映るらしい。

それぞれ喧嘩の強い個性豊かな兄達がいた反動か、何かといじめの標的になりやすかった僕は、早々に登校拒否。

僕は別に構わないと言ったのに、普段は仲の悪い兄上とアスタロト直々に父上に話が通ったらしい。義務教育中は学校に籍だけ置いて、家庭教師を付けられた。

そんな僕の趣味は小さい頃からの土弄り。

花が好きで、よく庭師に混じって遊んでは兄達に怒られていた。

でも

時々、エギュンは水やりを手伝ってくれる。

時々、ベルゼブブは珍しい種を持って来てくれたりする。

時々、アスタロトは文句を言いながらも腐葉土を入れてくれる。

時々、イブリースは雑草を刈ってくれたりする。

時々、アザゼルは病気に罹る草木の事を教えてくれた。


こっそりと父上に内緒だと言っては、手伝ってくれる兄達はとても優しい。

いつの間にか父上の庭は僕の庭も同然となり、庭師達が僕の意見を聞いてくれて、呼んでくれて。

一番の反対者だった兄上が折れて、怒るのを止めて。自分の見聞きした最近の庭園事情、その造詣を語ってくれるようになった。



父上から、高校進学の話が出たのはそのころだ。


そのときの僕は庭園プランナーとしてそこそこの活動もしていたし、時々父上の系列会社にも出入りをしている身でもあった。

難色を示していた僕に、兄上が理事を勤める学園から正式な編入手続きの書類が届いた。

あまりのタイミングの良さに、どうやら逃げられないと悟ったのは入学式も間近に迫った3月末日のことである。

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