小説 | ナノ


薄日が射していた。
音もなく反射するのは埃か塵か
レエスのカーテンを透過して
注がれる暖かさの無い、それ

その陽光を視界の端に捉えたアマイモンは、はて?と疑問に思った。視界の大半が黒く塗り潰されているのである。

寝起き、しかも大半が逆光で見えない目でしばらく眺めていると、その黒が呻き、こちらに倒れてきた。

反射的に支えようとして、
そこで初めて身体が動かないことに気付く。

その時、一際明るく瞬いた陽光に、ボクは目を見開いた。

(兄上!?)

緩やかな寝息がそよそよとボクの前髪を微かに揺らす。

兄上が寝ている。

見れば白いスーツ姿のまま。

おかしい。

兄上は寝るとき、寛ぐ時は浴衣に着替えるのに。

(というか、何故…ここに)

その時になってようやく、ここは兄の寝台の上であることに気付いた。

そうして自分の片腕は軋むほどの力で掴まれ、背中にも腕を回されている。目の前の兄によって。

動けないのはこの所為か。

恐らく鬱血しているであろう二の腕から兄に視線を戻したアマイモンはそこで首を傾げた。

(兄上の服、汚れてる?)

白いスーツ、丁度胸元に不自然な黒い染みがあるのだ。それは途中シーツに遮られ、その詳細な範囲は判らない。しかしかなりの範囲が汚れているのだとわかる。

そうして見上げた兄上の顔。

近すぎてよく判らなかったが、彼の口元も同様に汚れているらしい。

口の端に僅かにこびりつく黒い汚れを見て、アマイモンの眉が寄せられた。

訳がわからない。

何故自分は兄の寝室で眠っているのか。しかも抱き締められているかのような格好で。

何故兄の服は汚れたままなのか。潔癖症の彼にしては彼らしからぬ格好で。

そして何故、兄は起きないのだろう。

その疑問はすぐに解答を得ることになった。こほん、と。自らが咳き込むことによって。

「……???」

意識なく口の端から流れたもの。喉の奥から競り上がる生温かい感覚。

声を出そうにも抑えられるその不快感に身体が強張った。



どれぐらいその不快感に耐えていたのか。



不快感の波が僅かに去って、アマイモンは小さく息を吐いた。

時間にすればほんの僅かであろうその間にかなり疲労して、やって来た睡魔にも抗えずに目蓋が落ちた。


そうして微かに動く隣の空気。

「ん…アマイモン?」

(あ…)

声を掛けようと口を開いた筈だが聞こえてきたのは重いため息だった。

「まだ目覚めんか」

(あ…あに、)





再び意識が浮上した時、そこに兄の姿はなかった。窓辺へと視線をやれば夕日が見えて、かなりの時間が経過していたのだと理解する。だから


「早く起きろ、アマイモン」

そんな言葉と共に強く抱き締められて。僅かに唇を掠めてくる感覚があった。ような気がしたけれど。

あまりにも優しくて甘く響く声だったから。夢を見たのかもしれない、とボクは思った。






[アトガキ]

書いていた7000字超(しかも途中)の下書きが全消え、しました。メフィストが倒れたアマイモンの看病する話だったのに。ごめんねその後日談だよ。説明も兼ねてそのうち小咄としてUPするかもしれません。つまりは判りにくい話になってます。もうすいません。

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