冷たい雨の中、静かに眠る姿に
私は、有りもしない葬列を見た
[君は誰と夢をみる]
降りだした雨は冷たさだけを増し、静かにその森に降り続けていた。
音もなく視界は白く霞み始め、それが雨なのか、霧なのか、それとも単なる光の加減なのかさえ解らない。
兄が居たなら、この立ち込める霧も、雨も、細かく注釈を付けながら説明してくれたかもしれない。
ふと脳裏を過った後ろ姿に、そっと目を閉じると、眷属達の喜ぶ声が遠く聞こえた。
兄上が居ないのは残念ですがこの声は
「悪くないな」
ただただ、
肌を打つ水の感覚が心地よく、目蓋は常よりずっと重かった。
どれぐらいそうしていたのか。
ふと、雨の感覚が遮られた気がして薄く目を開いたら。
視界を覆う白皙の美貌が見えて
「 」
嗚呼、まだ、
自分は夢を見ているんだと思った。
「アマイモン」
ベヒモスの案内もあったが、メフィストがそこへたどり着くのにはかなりの労力を要した。
無限の鍵を使用するも、彼が出たのは弟の側ではなく、かなり距離のある民家、その廃屋だったからである。
恐らくアマイモンが何らかの力を発動させたのだろう。魔術の発動を確信してメフィストの目は鋭さを増した。
尋常でない規模に膨れ上がったその痕跡。いずれはこの異常事態に祓魔師達は気づくだろう。
これは揉み消すのは大変そうだと、これからの事務仕事を思案していたメフィストは、ベヒモスの鋭い咆哮に現実へと引き戻された。
雨で視界の悪い木立の向こう
草花に抱かれるように弟はいた。下手をすれば花に埋もれて見えなくなる姿に、暫し私は声のかけ方を忘れた。
「アマイ…モン?」
嗚呼、ようやく見つけた姿に、文句のひとつでも言ってやろうと思っていたのに!!
「アマイモン」
情けない事に私の口からはこの愚弟の名前しか出て来ない。
近くに歩んで、その顔を除き込んで。温かみの欠片もない白い顔に、訳もなく泣きたくなった。
「アマイモン…起きろ」
何をしている。こんな場所で。
その薔薇はなんだ。
その白詰草は?菫は?竜胆は?
嗚呼、違う。言いたいのはそんな言葉ではなくて。
「魔力でも使い過ぎたか?」
ヒトの器は大事に扱えと教えただろう
「怒っているのか?」
最近、ずっと構ってやれなかったから
「なあ、アマイモン」
喉の奥がまるで
氷塊を飲み込んだ時のように苦しい。
「起きてくれ」
そっと弟が微笑んだような気がした。
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