深夜、仕事が終わり部屋に入ると自室のソファーで弟が酔いつぶれていて驚いた。
クッションを抱き込み寝息を立てている弟の側には散らばった缶ジュースならぬカクテル、酎ハイ、様々なアルコール類が散らばっている。
そして辺りに漂うアルコール臭に混じる僅かな残り香にメフィストの機嫌は急降下した。
「霧隠シュラ。あの酒乱…」
普段なら形振り構わず机なり椅子なり缶にでも当たるところだが、今日はそんな気分にもなれない。
普段よりずっと鋭い音を立てて響いた指音に、扉の外で待機していた召使い達はビクリと肩を震わせた。
「片付けろ」
バタバタと片付けに走る使用人を背後に、メフィストは未だに眠りこける弟を抱き上げると乱雑に寝室へと放り込んだ。
かなりの距離を飛んだ弟に、背後の使用人達が息を呑み、さすがの高級家具もミシリともギシギシとも呼べぬ軋んだ音を立てる。
弟を受け止めた様子の暗い寝台を見て使用人からは安堵のため息が出た。しかしそれも一瞬のこと。くるりとそんな彼等を一瞥する瞳は言外に語るのだ。
「邪魔です☆下がりなさい」
一拍遅れに現実の音を得た意思に使用人達は一言も口に出来ず退室することとなる。
「普段もそんなに大人しくしていれば可愛げもあろうに」
見下ろした弟は、いつもよりずっと小さく見えた。
酒に上気した頬が薄く色づいて、水色の瞳は潤んで揺らめく。
いつもの3割は増している色気にこいつが女なら、と思ったのは否めない。
「あにうえ?」
「アマイモン」
ようやく自分を見下ろす人物を認識できたのか、舌足らずの声が呼ぶ。その呼気にさえ腐敗した甘さを連想してしまい、メフィストは小さく笑った。
たとえ相手が血を分けた弟であってもこの妖艶とも可憐とも言い難い色香に抗うのは。
「おかえりなさい」
「お前、それより言う事はないのか」
なんとも、難しい。
「あにうえ」
「シュラが来ていたようだが?」
「シュ、ラ、ああ、あの女」
「相当飲んだようじゃないか、ん?」
優しく前髪を払ってやると逆にその手を取って頬に刷りよせて来た。
「おや☆」
平静ならば決してしないであろう甘えた仕草に、嗚呼こいつ相当酔ってるな、と思う反面、こういう小動物的な可愛さは嫌いじゃないとも思って身動きが取れない。
「あの女、いやがるぼくにむりやり飲ますんですよ」
そうやってクスクス笑う、弟は私を見るがどこか焦点が合わない。もしかしたら弟はまだ夢を見ているのかも知れなかった。
「ぼくの顔があんまりにも変わんないから、つまんないって彼女は帰ったんですけど」
そこで一旦言葉を切ってアマイモンは小さくため息をついたようだった。
息苦しいのか、ネクタイに指先を絡ませたまま、こちらを見上げる水色が、揺れて、閉ざされる。
「どうせ飲むならあなたとがよかった」
まるでとびっきりの秘密を告げるような囁きに、メフィストの瞳が見開かれる。
「私と…?」
小さく呟かれた言葉に、返答は無かった。すよすよと寝息を立てる弟がいるだけだ。なんとも平和な光景にメフィストは苦笑する。
「手のかかる弟だ」
そうして、指先にかかったままのネクタイをほどいてやる。ころん、と仰向けにさせた弟。そのシャツのボタンを丁寧に外しながらも、メフィストはだんだん自分の機嫌が良くなってきているのを自覚していた。
指先に触れる、その体温が心地よかった。
(昨日、着替えた記憶がないのですが)
酔った弟を見せたくない兄上。
アマイモンはお酒に弱いとか。
で、兄上に介抱されてればいい
12/19誤字訂正。まじ恥ずかしい
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