たくさん歩いてもうすぐこの島にある一番大きな街に着くぞっていう矢先、突然大雨が降ってきて私もお姉さんもシェイミちゃんもびしょびしょになってしまった。 「この森さえ抜ければすぐだったのにな」 大きな木の下で雨宿りすることにして、服の端っこを掴んで軽く絞ってみればぼたぼたと吸い込んだ雨水が溢れてくる。黒い髪がペタンと頬に張り付いているお姉さんも上着を脱いで雑巾みたいに絞っていて、シェイミちゃんは少し離れたところで体をぶるぶる震わせて水を飛ばしていた。 『通り雨みたいですし、すぐに止むでしょう』 「そっかぁ、良かったー」 鞄からシートを取り出して、地面に敷いてその上に座る。べちゃっとなる服が少し気持ち悪いけど、流石にここで着替えるわけにはいかないから我慢する。 隣にお姉さんが座ってぼんやりと空を見上げる。視界の端にきらりと光るものが見えて、私はそれを見上げた。 「…ネーヴェお姉さん?髪が…」 「え?あっ…!!」 雨に濡れたお姉さんの髪の上の方が、少しだけ白くなっていたんだ。そこを見ていたら慌ててお姉さんは立ち上がり、木の後ろのほうに行ってしまった。私も立ち上がってそっちに行けば、しゃがんだお姉さんが鞄から何か長い筒を取り出しているのが見えた。 「お姉さん、何してるの?」 「…見るな、そっち行ってろ」 「お姉さんの髪、もともと白いの?」 私の質問に答えず、お姉さんは筒の蓋を外した。スプレーみたいだ。 「ネーヴェお姉さんの髪、真っ黒なのにきらきらして見えたのはもともと真っ白だからだったんだね」 「うるさいッ!」 「あっ…!」 突然お姉さんが大きな声を出すから驚いて、木の根っこに足を躓かせて尻餅をついてしまった。すぐに立ち上がってまたお姉さんを見れば、凄く悲しそうな表情で私を見ていた。でもすぐに俯いて、ぎゅっとスプレーを握る。 「…お前はそんなんでもな、世間じゃ気味悪がられるんだよ。白い髪に赤い目なんて、人間じゃないみたいだってな」 お姉さんはそう言いながら、右目を隠している長い前髪を一撫でした。そっか、その前髪の理由もそうだったんだと、私は初めて知る事に納得した。 「それで…わざわざ、黒くしているの?」 「全部塗りつぶしてくれる黒なら、目の赤も目立たないんだよ」 そう言いながら髪の毛にスプレーを吹きかけていくお姉さん。徐々に白いところが黒く染まっていくのを見ていたら、なんだか悲しくなった。 「私は綺麗だと、思うけどなぁ」 「どっかずれてるお前は例外だ」 「きっと皆、あまり見ないから驚いてるだけなんだよ」 染め終わったお姉さんはスプレーを鞄にしまって、元いたシートの上にまた座った。 「驚いただけなら普通、暴言なんて口から出ないだろ」 「ネーヴェお姉さんは…自分の髪が、嫌い?」 「あぁ、嫌いだね」 私の問いにすぐに答えたお姉さんは空を恨めし気に見上げた。 「雨も嫌いだ」 「私は両方好き!」 お姉さんの隣に座って、そっと身を寄せてみた。雨に濡れて少し冷えた体が、触れたところから私とお姉さんの温もりを合わせたみたいに温まる気がした。 「雨は、お花にとって絶対必要なものだもん。それにこうして、お姉さんとゆっくりお話しできる時間もくれた」 「お前、嫌いなものなさそうだしな」 「嫌いなものより好きなものを探したほうが、楽しいもん。お姉さんの髪も好きだよ、きらきら光ってて真っ白で、お姉さんに似合う」 「白が私に似合うって?」 信じられないといった表情で私を見下ろしたお姉さんに、私はにーっと笑顔を向けた。 「いつか、染めてない真っ白な髪、見せてね!もう絶対、驚いたりしないよ」 私とお姉さんが身を寄せている、少し離れたところにいるシェイミちゃんが何かを呟いたけど、雨の音と戸惑うお姉さんの表情から目が離せなくて私には聞こえなかった。 『まさか…ネーヴェが…?』
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