良いお天気の中をお姉さんとシェイミちゃんと歩く。 それだけで幸せだなぁと思ってしまったけど、私はお兄様を捜さなくちゃいけないんだとしっかり思い出す。もう忘れないぞと心に焼き付けるように何度も何度も頭の中で繰り返してみた。 そもそもどうして私はここにいるんだろう?ネーヴェお姉さんがここを小さな島と言っていたのを覚えている。この島のどこかに私の住む家があるんだろうか? ふと小さな不安が私の心に生まれた、その瞬間。 「きゃあっ」 草むらから突然何かが飛び出してきて、思わず悲鳴を上げてしまった。 『フロール、下がって!』 シェイミちゃんが私の前に立って威嚇するように飛び出してきたものを睨みつける。どうやら野生のポケモンみたいで、大きな前歯をこちらに向けて戦う気みたいだ。 「お前も下がってろ、さっさと終わらせる」 ネーヴェお姉さんが腰からモンスターボールを取り出してポケモンの前に投げた。すると赤い光から現れたのは、黒と赤の体に鋭い爪をもったポケモンだった。 「目標はビッパ。いいなマニューラ!」 「うわあっ…!」 野生のポケモン、ビッパを指さしてボールから出てきたポケモンにそう言い放つお姉さん。なんだか凄くかっこよく見えて思わず私の口から歓声がこぼれた。 「マニュッ!」 お姉さんの指示に合わせて軽い身のこなしで鋭い攻撃をしていくマニューラちゃん。あっという間にビッパを追い払ってしまった。 「すごいすごいっネーヴェお姉さんかっこいい!」 ぱちぱち拍手をしながらお姉さんに駆け寄ると、お姉さんはマニューラちゃんをボールに戻して何故か溜息をついた。 「あんな野生のポケモンとの戦いで褒められてもな…」 「すごくかっこよかったの!マニューラちゃんと息もぴったりで、それで…!」 「あーわかったから、そんなに興奮するな」 ぽんぽんと頭を優しく叩かれて、思わず触れられたところに自分の手を当てる。思ったこと、ちゃんと伝えたかっただけなんだけどなぁ。 「私とシェイミちゃんもそんな風になれるかな?」 「お前らじゃ無理そうだな、まずフロール、お前が向かない」 「そんなことないよ!私とシェイミちゃんだって息ぴったりなバトルが出来るよ!ね?シェイミちゃん」 頭の中で私とシェイミちゃんがお姉さんたちみたいにかっこよくバトルしているのを想像してわくわくして、足元のシェイミちゃんに同意を求めて視線を落としてみた。でもシェイミちゃんは考え事をしているのか、私のほうを見てくれなくて。 「シェイミちゃん?」 「大体、ポケモンが飛び出してきたくらいで悲鳴を上げてるお前にバトルが出来るとは思えないな」 お姉さんがボールをしまって歩き出したから私も隣を歩き始める。シェイミちゃんがちゃんと後ろをついてくるのを確認してからお姉さんを見上げた。 「さっきは、少し考え事をしていたから…あれ?何を考えてたんだっけ」 「また記憶がなくなりましたー、とか言わないよな」 「言わないよ、私ネーヴェお姉さんのこと忘れないもん!きっとどうでもいいことだからすぐに忘れちゃっただけだもん」 こうしてお姉さんとシェイミちゃんと暖かいお日様の光を浴びながら歩けることが幸せ。いつまでもこんな風に楽しく色んなものが見れたらいいなぁって思った。もちろん、お花屋さんにはなりたいけど。 「かっこよくバトルも出来るお花屋さん…難しいかな」 「バトルする必要ないと思うんだが」 「バトルで勝ったらお花が買える…とか?」 「誰も来ないだろそんな店」 お姉さんがくすっと笑ってくれて、思わず私も笑顔になった。するとお姉さんは私とシェイミちゃんを交互に見た。 「お前らは…バトルするより普通に花を売ってる方がお似合いだな」 「だって、シェイミちゃん。私たちお似合いみたい!」 『フロール、褒められてる気がしません』 お兄様を見つけたら、まずはネーヴェお姉さんの夢を見つけてあげる約束のことを話そう。そしてそれが終わったら、お花屋さんになりたいことも。私が大好きなこの緑に溢れる世界で、皆を笑顔にするために。 空を見上げたらやっぱり良い天気。この空の下、どこかにいるお兄様に早く伝えたいな。
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