「ネーヴェお姉さんは、何をしていた人?」
星がきらきら飾る夜空にぼんやり浮かぶ月を見上げながら、ふと思ったことを聞いてみた。少し冷たい、でも気持ちのいい風が吹いてシェイミちゃんの頭のお花を揺らしていた。
聞かれたお姉さんはというと、どこか困ったような顔で私から目を背けてしまった。
「お前、私との出会い方を忘れたのか」
「そっか、盗賊のお姉さんだ!」
思い出して手をぽんと叩けば何故か溜め息をついたお姉さん。
「…今はわざわざそんな真似しなくても、金のなる木が目の前にあるからな」
「それって、シェイミちゃん?」
『やめてください、触ったら噛みますよ』
「お前だお前」
私のことを指さしたお姉さんに、私は首を傾げる。
「私、お金あんまり持ってないし、木でもないよ?」
「最初にも言ったと思うけど、金持ちみたいだからな。服を見ればわかる、上等なもんだ。あんたの兄さん探し出して、お守代がっぽり取ってやる」
これまでのどこか呆れたみたいな表情じゃなくて、突然嬉しそうに笑ったお姉さん。笑顔が綺麗で少しぼんやりしてしまったけど、お姉さんの言ってることが気になって頭を横に振ってから、笑顔を向けた。
「やっぱりお姉さんは優しい人だね!」
「今の話でどうしてそこに繋がるんだ…」
綺麗な表情も私の言葉ですぐに消えてしまって、また呆れ顔に。でもそんな表情のお姉さんも嫌いじゃないから私はにこにこが抑えられないんだ。
「だってね、私を人質にとることも出来るでしょ?身代金…とか、要求したり。でもネーヴェお姉さんはそんなことしないで、お兄様を捜すの手伝ってくれるんだもん」
「それはっ…別に…」
慌てたように私を見たお姉さんだったけど、何を言おうか迷ってるのかすぐに俯いてしまった。だからお姉さんの両手を掴んでぎゅっと握ってみる。
「盗賊なんてやめたほうがいいよ、ネーヴェお姉さんはもっと素敵なことが出来る人だよ!だって私のお友達だもの!」
「い、いつから友達になったんだ。そんなつもりないっ」
私の手を振り払ったお姉さんは少し荒げた息を軽く整えてからそっと空を見上げた。
さっきと変わらない綺麗な星空。お姉さんの黒い髪はやっぱり不思議ときらきらして見えた。
「…私だって、別にやりたくてやってたわけじゃない」
「やりたくないならやめたらいいんだよ」
「今更、何をするって?」
空を見上げたままのお姉さんの目には何が映っているんだろう。夜空を見上げているはずの瞳が黒くくすんだ気がしてハッとして、思わず私はまたお姉さんの手を握っていた。
「じゃあ、私が見つけてあげる!」
「は?」
お姉さんが見ている景色を見てほしくなくて、ぐっと手を引いて私のほうを見てもらう。その目は綺麗な色に戻っていて何故か安心した。
「お姉さんがしたいこと、お姉さんが笑顔になれること!ネーヴェお姉さんがお兄様を捜してくれるなら、私は本当のネーヴェお姉さんを見つけてあげるねっ」
こんなに優しくて、綺麗な人ならとても素敵なことが出来る気がしたんだ。あのお花畑で私を見つけてくれたお姉さんなら、きっと誰かの幸せを見つけられるようなことが。
真っ直ぐにお姉さんを見上げてそう言えば、お姉さんは今度は手を振り払ったりしないでただ、戸惑うように私を見ていた。
「あんたは…お人好しだ」
『それがフロールのいいところです』
私の足元にはシェイミちゃんがいて、シェイミちゃんは何故だか疑うような目でお姉さんを見ていた。
「シンオウの片隅にあるこの小さな島でそんなものが見つかるとでも?」
「ここになくても、どこかにあるよ!もしお兄様が見つかったときにネーヴェお姉さんのやりたいことが見つからなかったら、私お姉さんについてくからっ」
「ついて来れるかはそのお兄様が何を言うかによるだろ」
また溜息をつかれてしまった。でも私は引きたくなくて、ぐっとお姉さんに顔を近付けて息巻く。
「何を言われてもネーヴェお姉さんについていくの!」
『フロールは一度言い出すと聞きませんよ』
「なんとなく察してるよ…」
「いいでしょお姉さん!お友達だものねっ」
「だから、私は友達になったつもりはない」



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アネモネ
(期待に胸を膨らませ)




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