さっきまでいた小さな町には、お兄様らしき人は見当たらなくて。ネーヴェお姉さんと一緒に住んでいる人に色々聞いてみたけど何もわからなかった。 だから私とお姉さんはお兄様を見つけるために町から出て、たくさん木が並んでいる道を歩いていた。 「あ、見て見て!とても綺麗な花が咲いてるっ」 『本当ですね』 道の隅にお花が咲いていて、思わず駆け寄ってそれを手に取る。私の手の中で風に揺れてまるで首を振っているみたい。しゃがんでそれを眺めていると、足元にシェイミちゃんが擦り寄ってきた。 「…あんまり、むやみに摘み取るもんじゃない」 後ろからお姉さんがそう声をかけてきた。どういう意味だろうと振り向くと、何故だかお姉さんは悲しそうな顔をしていた。 「ネーヴェお姉さん?」 「植物だって、生きてるようなもんだ。そこまで咲き誇って、それで無意味に引き抜かれちゃこれまでが無駄だろ」 「ご、ごめんなさいっ」 「…いや、気にするな。行くぞ」 お姉さんが言いたいことがわかって、私は自分で摘んでしまった花を見下ろす。そしてハッと思いついて少し前を歩いていたお姉さんに駆け寄った。 「ネーヴェお姉さん!かがんで?」 「は?何突然」 「いいからっ」 身長が大きいお姉さん。私がしたいことはお姉さんがかがんでくれないと出来ないことで。だからお願いしたら、お姉さんは渋々といった感じにだったけど立ち止まってかがんでくれた。 「はいっ」 お姉さんの耳元にそっと花を飾ってみる。そうしたら、ネーヴェお姉さんの黒い髪に白い花が綺麗に映えてとても眩しく見えた。 「とても素敵!ね、これで無駄なんかじゃないよね?」 「お前…はぁ、こんなもの、私に似合うわけないだろ」 立ち上がったお姉さんはせっかく似合っていたのに花を耳元から外してしまった。 「似合ってたよ!凄く!」 『意外ではありましたが』 「うるさいな」 ぼそりと呟いたシェイミちゃんにお姉さんが睨みをきかせると、手元にある花に視線を落とした。どうしたのかな、と首を傾げると、お姉さんは私を見て腕を伸ばしてきた。 驚いて思わず目を閉じると、ふわりと花の良い香りがして。ゆっくり目を開ければ、耳元に違和感があった。 「こういうのは私なんかより、お前みたいなのがつけるべきだろ」 『似合ってますよフロール、可愛いです』 「お前、私のときとは大違いだな」 お姉さんにつけてあげた花を、今度は私がつけてもらったんだとわかって、どこか嬉しくなって笑った。 「似合う?お姉さん、似合う?」 くるりとその場で一回転してみる。ネーヴェお姉さんはそんな私を見ていたけど、突然視線を逸らして頭を掻いて黙っていた。 「お姉さん?」 「…」 「ネーヴェお姉さん?」 「何度も呼ぶな、聞こえてる」 呆れたように溜息をついたお姉さんは、進んでいた道をまた歩き出してしまった。その後ろをシェイミちゃんとついていくと、ぼそりと小さな声が聞こえた。 「…似合ってる」 「…!あ、あのね、私ね、大きくなったらお花屋さんになりたいの!お姉さんに一番似合うお花、選んであげるね!」 『私にもお願いしますね』 「お前はもう頭に花ついてるだろ」 『たまにはイメージチェンジというやつをしたいのです』 「ポケモンの癖に生意気な…」 「たくさんの人にね、その人に似合うお花を選んであげたいの。それが夢なんだぁ。お姉さんの夢はなぁに?」 そう聞けばお姉さんの歩く速度が少し遅くなって、その隙に隣に駆け寄る。そしてお姉さんの顔を見上げれば、お姉さんはなんとも言えないような表情をしていた。 「夢、か…考えたことなかった」 「でも、お姉さんは私より長く生きているよ?」 「それでも、考えたことなかったんだよ。毎日が必死だったから」 「必死?」 「…なんでもない」
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