「気持ちいいねーっ」 日の光の中でぐんっと背伸びをする。太陽が少し高いところまで昇って皆を照らしてくれていて、それがなんだか嬉しくていっぱい空気を吸い込んだ。 「お前、これからどうするつもりなんだ?」 赤い屋根の建物から一緒に出たネーヴェお姉さんは、腰に手を当てて私を見ていた。様になっててかっこいいなぁ。 「どうするって?」 「記憶がないのに、行く当てあるのか?」 言われてはっとした。これから私がどこに行けばいいのかも、どこに帰ればいいのかもわからない。頭に手を当てて何かを思い出そうとしてみれば、ふとあることを鮮明に思い出した。 「そう!私、捜してる人がいるの!そうだよね?シェイミちゃん」 『えぇ、そうですね』 私の足元にいたシェイミちゃんを見れば頷いてくれて、記憶が合ってるって実感を貰えた。 「私と同じ金色のきらきらした髪でね、とても優しくて…それからぁ…」 必死に思い出そうとしていれば、ネーヴェお姉さんは私じゃなくてシェイミちゃんに目を向けた。 「そいつのこと、お前は知ってるのか」 『会ったことはありません。でもどんな人かは知ってます、フロールに聞かされてますから』 シェイミちゃんがそう言えば、ネーヴェお姉さんは顎に手を添えて遠い方を見ていて、何か考えているようだ。私も負けじと何か思い出せないか考えてみる、けど、あまりよくわからなくて少し寂しくなった。 「…ネーヴェお姉さん」 「だから、名前呼ぶなって言っただろ」 「お願いがあるの!」 「…人の話、聞かないなお前」 ネーヴェお姉さんに隣に駆け寄って、お姉さんのお洋服をきゅっと掴んだ。何かを掴んでいないとネーヴェお姉さんはどこかに行ってしまう、と思ったからだ。 見上げたお姉さんの顔はどこか驚いたような表情をして私を見ていた。 「私と、一緒にいてくれる?」 「…何度も言うけど、あたしはお前を脅したんだぞ」 優しい人だなぁって思った。一晩一緒にいても結局私のことを傷つけたりしなかった。脅したのだってあれ一回きりだったし、こうして自分は危険な存在なんだと私に教えてくれているんだ。 「私ね、ネーヴェお姉さんともっと仲良くなりたいよ」 不安だと思う気持ち、寂しいと思う気持ちも勿論ある。けれどそれ以上に、ネーヴェお姉さんとの出会いをここで終わらせたくなかった。 服を掴む手に力が入ってしまって、はっとして皺になっちゃいけないと手を離す。 「ネーヴェお姉さんと…お友達に、なりたいよ」 「…はぁあ」 突然お姉さんが力が抜けたように大きく溜息をついた。それに驚いて何度も瞬きをすれば、どこか納得いかないような顔のお姉さんが私の頭に手を置いた。 「見つかるまでだ」 「え?」 「お前の捜してる奴を見つけるまでは、一緒にいてやる」 「ホント!?」 「この島のどこかにいるんだろ?」 『多分、ですけどね』 「ありがとうネーヴェお姉さんっ!」 「く、くっつくな!」 嬉しくて嬉しくて、思わず腕を広げてお姉さんに抱きついた。お姉さんは嫌そうな顔で私の肩を掴んだけど、無理やり力任せに引きはがすようなことはしてこなくて。 「やっぱり私、ネーヴェお姉さんと出会えてよかったぁ」 「あぁそうかい。それで?お前の捜してる奴ってのは金髪で、他には?」 「そうそう、絵がとてもお上手なの!」 「他には?」 「うーんと…」 お姉さんから体を離して、私も顎に手を添えて考えてみる。記憶って、どうやって思い出すものなんだろう?と悩んでいると、足元にシェイミちゃんが擦り寄ってきた。 『フロールのお兄さん、ですよ』 「あ、そう!お兄様!」 「つまり、こいつに似てるってわけだ」 私も金色の髪だった、と自分の髪に触れて笑う。太陽の光できらきら光るそれに、ぼんやりとした記憶の中のその人の色が重なる。 「早く会いたいなぁ…お兄様」
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