シェイミちゃんが近くに人のいる場所があって、そこにお泊り出来るって教えてくれたからその場所まで来てみた。 真っ赤な屋根が素敵な建物に入れば、店員さんだと思われるお姉さんが笑顔で迎えてくれた。 「お部屋、一つ貸してください」 「かしこまりました、一名様ですか?」 「この子も一緒です!シェイミちゃんです」 カウンター越しの店員さんに見えるよう、よいしょとシェイミちゃんを抱き上げればどこか不機嫌そうなシェイミちゃん。お腹でも空いちゃったのかな? 「ふふ、はい、二名様ですね?」 真っ白なお帽子と真っ白なエプロンによく似合う笑顔でくすくす笑った店員さん。きっとこの店員さんもシェイミちゃんを気に入ってくれたんだろう。 そっと床にシェイミちゃんを降ろしてあげれば、静かな機械音と一緒にお店のドアが開いて、あの盗賊のお姉さんが中に入ってきた。もしかしてついてきたのかな? 「盗賊のお姉さんっ」 「ばっ…その呼び方やめろ!」 嬉しくて駆け寄ったら怒られてしまった。胸が少し痛くなって、胸の前で手を組んで私より身長の高いお姉さんを見上げる。 「ご、ごめんなさい。でもお名前、わからないから…」 「ていうかさ、さっき脅してきた相手なのに何も思わないわけ?怖いとか、近づかないでおこうとか」 「どうしてお姉さんを怖がらなきゃいけないの?私、お姉さんのこともっと知りたいの!」 「あたしはそうでもない」 私と一度も目を合わせてくれなかったお姉さんはそのまま私の隣を通り過ぎて、さっきまで私がいたカウンターに向かった。寂しくなってその場にしゃがんだら、足元にシェイミちゃんが来てそっと手に擦り寄ってきた。 「空いてない?」 シェイミちゃんの柔らかくてふわふわな頭を撫でていたら、お姉さんがそう言ったのが聞こえて。カウンターのほうを見たらさっきまで綺麗な笑顔だった店員さんは困ったような表情になっていて、お姉さんは後姿しか見えないけど頭を掻いて何やら店員さんに言っているようだ。 「ごめんなさい、先程の方でいっぱいになってしまって…」 私のことだ!と立ち上がってカウンターに駆け寄ればお姉さんの顔が見えた。突然来た私に驚いているのかお姉さんとやっと目が合う。 「お姉さんもお泊りしたいの?」 「他は金がかかるからな」 『ケチな人間ですね』 「んだとっ」 どこか呆れたように言ったシェイミちゃんにまた怒り出しそうなお姉さん。なんとかしないとと、私は店員さんを見た。 「あの、お部屋って広いの?」 「あ、はい。ベッドが二つありますし…」 「それじゃあ、さっき二人って言ったけど、三人にしてください!」 そう言えば店員さんは察してくれたのか笑顔になって返事をしてくれた。机に置かれたパソコンに何やら入力してるみたい。隣のお姉さんはというとぽかんという顔で私を見ていた。 「これでお泊り出来るね、お姉さん!」 「お前…さっきも言っただろ、脅してきた相手と同じ部屋に泊まるつもりか?」 「お姉さんのお名前は?」 「聞いちゃいねぇ…」 『その子に何かするつもりなら私が黙っていないですからね』 「はぁ…」 店員さんが差し出した部屋のキーをお姉さんが受け取った。そしてちらりと私とシェイミちゃんを見て溜息をつくと、部屋があるほうの廊下に歩き出す。 「…何してんだ、行くぞ」 「!うんっ」 背中を向けたままだけど私たちに話しかけたのがわかって、嬉しくなってお姉さんに駆け寄った。 「お前、名前は」 「私はフロール!お花が好きで、シェイミちゃんも好き!あとそれから」 「あぁもういい。どうせ今晩だけの付き合いだ」 開けっ放しの窓から吹いた風がお姉さんの長い前髪を揺らした。黒いのにどこかきらきらしてるお姉さんの髪が綺麗で思わずじっと見てしまう。 気付いたお姉さんが私を見ると、今度は小さく息をついてあまり大きくない声で零した。 「…ネーヴェ」 「!お姉さんのお名前?」 「そうだよ、知りたかったんだろ」 「うん!ありがとう、ネーヴェお姉さん!」 「あんまり名前、好きじゃないんだ。お姉さんだけでいい」 「どうして?良い名前なのに」 「いいから、呼ぶな」 「あ、夜ご飯は何を食べよう?」 『ここは野菜がとても美味しいと有名ですよ』 「…はぁ」
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