「確かここら辺だって…」

「ブビィっ!」

「あった!!よくやったなブビィ、あとでうまいもん食わせてやるからなっ」

本日は晴天なり。
ここは周囲がほとんど木なだけあって空気はうまいし、暑すぎず寒すぎずいい旅日和だ。

俺リオと相棒のブビィは旅の途中、困っていた婆ちゃんがいたから人助けの途中。
なんでもお孫さんから貰ったお守りを落としてしまったらしく、野生のポケモンがいる草むらにそのヨタヨタした足で探しに入ろうとしていたんだ。
『困ってる奴を見かけたら【てだすけ】!』
それが家のモットウだ、まぁ父さんの口癖だったんだけどな。
「ちょっと汚れちゃってるな…しょうがねぇか、よーし届けに行くぜブビィ、婆ちゃんはもうヨシノに帰ってるだろ」
「ブビっ」
「あ、こらっ、燃えちまうって!」
お守りが気に入ったのかブビィがそれを口元にもっていくもんだから慌てて奪う。ちょっと不満げな顔を向けてきた。
「これは婆ちゃんの大事なもんなんだ…何か欲しいなら今度ちょうど良さそうなもの探してやるよ」
「ブー」
「そうだ、俺とお揃いの羽飾りにするか?コガネとかデパートがあるとこに着いたら買ってやるよ!」
「ブービッ!」
俺の言葉にブビィはころっと機嫌を直し、前を足早に歩き出した。
心地のいい風に揺られて頬を撫でた自分の耳元の羽飾りに触れてみる。今日も変わらずふわふわだ。
「わっ。あいつもうあんなところまで…待てよブビィ!」
大地を蹴って勢いよく走る。順調な旅路に自然と俺は笑顔だった。



「女の子?」
「そう…この町からキキョウに向かう途中にねぇ、屋敷があるそうなんじゃ。そこに女の子が…あんたよりももう少し幼い女の子がねぇ、一人で住んでるそうなんじゃよ。わたしゃ心配でねぇ…孫と変わらない女の子が一人でいるなんて…」
婆ちゃんにお守りを渡すと目に涙を浮かべるくらいに喜んでくれた。
そんで、お茶でもって言われたからお言葉に甘えてくつろがせてもらっていると、婆ちゃんが突然そうぼやき始めた。
婆ちゃんちのガーディと遊んでるブビィを眺めていたけど、話の内容に思わず婆ちゃんを見る。
「家族は別のところにいるのか?」
「さぁねぇ…だぁれもその子について詳しくは知らないよ。何せ屋敷からまったく出てこないそうだから」
ずずーとお茶をすする婆ちゃんはどこか寂しそうだ。さっきも言ってたけどきっと遠くに住むお孫さんと重ねてるんだろう。
「…俺、キキョウに行くし、その子の様子見てくるよ」
「屋敷は森の奥にあるそうじゃが…大丈夫かねぇ?野生のポケモンも多いし…」
「大丈夫大丈夫!俺にはブビィがいるしさ、な!」
「ブビィ!」
同意を求めれば相棒は元気良く返事をして俺の方に飛びついてきた。慌てて受け止めれば嬉しそうに笑っている。頭を撫でてやればもっと嬉しそうに目を細めた。
そんな様子の俺たちを見ていた婆ちゃんはタンスのほうに行くと、いくつか道具を机に並べた。
「もってお行き。お守りを見つけてくれたお礼じゃ。気を付けて旅を続けるんじゃよ」
「ありがとう婆ちゃん!大事に使わせてもらうな」
きずぐすりにどくけし、森でお世話になりそうなものをバッグに詰め込んで、俺は椅子から立ち上がった。
「また遊びにおいで」
「今度来るときはその子も連れてこられたら連れてくるな!」
「ブービ」
家から出ると婆ちゃんが俺たちに手を振っていた。振り向いて手を振り返せばちょっと寂しそうな笑顔が見えた。
「また来ような、ブビィ。お前もガーディと仲良くなったもんな」
「ブビ」
力強く頷くブビィに思わず笑って、キキョウまで伸びる30番道路に足を踏み入れた。


道路から少し外れた森の中。
ヨシノで買ってきた昼ごはんのパンを銜えて木々の間を歩いていく。隣を歩くブビィは何度かあった野生のポケモンたちとの戦闘でちょっとお疲れ気味のようだ。
まだ夕方にはなっていないものの、森の中は木々が生い茂っているせいかちょっと薄暗い。
「ホントにこんなとこに女の子が住んでんのかな…」
婆ちゃんを疑うわけではないけど、流石に不安になる。結構町から離れてるし、話じゃ俺より小さい女の子だ。
「ブー」
効果音をつけるならトボトボといった感じで歩いているブビィは、今にも「もう帰ろうぜ」と言いそうだ。
「屋敷があるって漢字でもないしなぁ…」
一口分残っていたパンを頬張って、ブビィにきのみを差し出した。
「…ブビィ?」
さっきまでだるそうな目をしていたブビィが、突然向かっていた方向を真剣な目で見始めた。何事かと俺もそっちを見れば、勢い良く走り出す相棒。
「あっ、どうしたんだよ!ブビィ!」
追いかけて俺も走る。
ブビィが走る方向には初めは木しか見えなかったが、奥へ奥へと走っていくうちにどこからか甘い匂いがし始めた。
「この匂い…どこかで…?」
そろそろ息が切れそうだ、というところでやっとブビィは立ち止まってくれた。肩で息をしている俺と違ってどこか嬉しそうだ。さすがポケモン、恐ろしい体力だ。
「ブービ!」
「…モモン?」
顔を上げた俺を囲んでいたのは、モモンの木。しかもそこらじゃ見れないような背の高くなった立派なモモンの木だった。そんな木たちに囲まれるように、そこに屋敷はあった。
「屋敷だ…」
こんな森の中にあるのに、傷ひとつない真新しい大きな屋敷。窓なんていくつあるのかわからないくらいに。
圧倒されて口を開けたまま見上げていると、ブビィが木に登ってきのみを三つ採ってきた。二つを俺に差し出せば、残った一つを美味しそうに頬張る。
「モモンの匂いに気付いたのか…美味しいか?」
「ブー」
「おい、俺の服で手を拭くなって」
べたべたになって手で触ってこようとするからハンカチを渡す。
「よし、じゃあ中にお邪魔してみるか!」
これまた大きな入り口の周りにはチャイムも何もなかった。試しにドアを引いてみれば音を立てて簡単に開いたので、そっと中に入ってみる。
中は薄暗く、人気なんてまったくない。それでも床や家具には一切埃も塵もなかった。
「だ、誰かいませんかー」
そう言ってみれば自分の声が響くだけで、物音一つしない。きょろきょろ辺りを見回す俺だったが、怖いもの知らずなブビィは勝手にズカズカ奥へ行ってしまう。
「あ、また勝手に…!」
ブビィは二階の部屋に入っていった。追いかけて部屋のドアを開けると
「……………」
「……こ、こんにち、は」

部屋の窓辺に一つだけ置かれたソファに、女の子がいた。

顔はこちらを見ているようだが、長い前髪が鼻まで覆い隠してしまっているため口元しかわからない。くせっ毛だろうか、うねりのある紫の長い髪は高い位置で二つに結われていて、大事そうに腕に抱いている継ぎ接ぎだらけの人形を持ち直す動作に合わせてそれが揺れた。
「ここに、住んでるのって…君?」
「…」
返事はなかった。ただ首だけを動かして窓のほうを見る。俺のことなんて気にしていないように。
「勝手に入ってごめん、君の噂を聞いて、えーっと…」
取り敢えず話をしてみよう!ってことで、部屋の中に足を踏み入れてみた、瞬間。
「うわぁっ!?」
何かが突進してきた、思わず尻餅をつけば部屋の中に一つの影。
ゴースだった。俺に明らかに敵意をむき出しにしているのがわかる。それに気付いたブビィが間に立ってあっちに敵意を向ける。
「ゴース!?なんで屋敷の中に…っブビィ!」
「ブビィ!」
「やめてッ!」
ブビィがひのこを吐き出そうとした瞬間、女の子が立ち上がって叫んだ。
その子の外見からは想像できないような大きな声で、俺もブビィも、ゴースも呆気にとられ女の子を見る。
「おいで」
ゴースが素直に女の子に近寄っていって、甘えるように擦り寄った。
「そのゴースは、君のポケモンだったのか?」
「違う、友達」
むっとした表情でそう答えるその子は怒っているようだった。
「帰って」
そう一言言えば、またソファに座る。今度はゴースも大人しく女の子の隣にいた。
「君の事、心配してる人がいるんだ」
「そんな人いない」
俺のほうすら見てくれなくなった。完全に嫌われているみたいだ。
これは手に負えない…そう思ってブビィのほうを見れば、何を思ったのか相棒は女の子のほうにダッシュして行った。
「は!?ブビィッ!?」
「!」
女の子の膝の上に飛び乗れば、何かを必死に訴えるようにブビブビ言っている。隣にいるゴースが今にも呪い殺さんばかりにブビィを睨んでいるが、女の子が何も言わないからか動きはしなかった。
「…うん」
女の子は何に頷いたのか、膝の上で何かを熱弁しているブビィの頭を撫でると表情を柔らかくさせた。口元しかわからないけど、確かに笑っているように見えた。
「マルルーモ」
「え?」
ブビィを床にそっと下ろして、女の子は俺を見た。呟いた言葉に聞きなじみがなくて思わず聞き返してしまう。
「…私の名前。長いからルーでいい」
ブビィが俺のズボンの裾を引っ張って中に入れようとするけど、さっきのことがあって素直に入ろうと思えない。ゴースのほうを見て確認してみれば、女の子の横でただブビィを睨み付けていた。
ゆっくり中に入れば、女の子、もといルーは俺を見て何かを小さく呟いたが小さすぎて聞こえなかった。
「お、俺はリオ!ワカバから来たんだ」
「…旅?」
「そんなもんかな、ここいい?」
ルーが頷いたから窓の横の壁に寄りかかって座る。ここまで結構長かったからか、足は相当だるくなっていた。思わずため息が出る。
「ここまで来るの、思ったよりしんどかったぜ。こんなところに住んで不便じゃないか?」
「外出ない」
「ルーの家族はどこに住んでるんだ?」
「いない」
ゴースを撫でながら淡々と俺の質問に答えていく。まるで会話とは言えない感じだ。
「一人は…寂しくないか?」
「一人じゃない、この子がいる」
どこかゴースは誇らしげな顔をしていた。ブビィのほうを見て。
「友達…って言ってたよな」
そう俺が言えば、何故か表情が暗くなる。慌てて俺はブビィを抱き上げ自分の膝に乗せた。
「俺も、コイツと友達なんだ!」
「え…?」
「三年前くらいからいつも一緒にいるんだ、飯も風呂も、寝るときも、もうコイツと一緒じゃなきゃ不自然なくらいに」
今度はブビィが誇らしげに笑っていた。ゴースに向かって。何故だろうここにライバル関係的なものが見える。
「バトルするのも楽しいけど、やっぱりブビィと一緒にいること自体が楽しくてさ。ボールに入れないで隣にいてもらってるんだ」
「…」
「ブーブビィ」
ルーがブビィを見ると、まるで何かを言っているようにブビィが鳴いた。
「…私も、そう。この子がいないと、不安になる。この子がいないと、本当に一人になっちゃう」
やっぱり一人は寂しいんだろう。ふ、とヨシノの婆ちゃんを思い出す。婆ちゃんは都会に暮らす家族と離れて田舎に暮らしているそうだ。だから、きっと一人の寂しさを知っていたんだろう。だから一人のルーを心配したんだ。
「ルーは、したいことはないのか?ジムに挑戦とか」
「戦いは…嫌い」
「じゃあ、なりたいものは?お花屋さんとか」
「…ない」
「うーん…行きたい場所は?」
「どんな場所があるのか…何も知らない」
もしかしたらずっとこの屋敷にいたのかもしれない。世間を、世界を知らないでいたら無欲になって、生きることは格段につまらなくなるって、昔父さんが言っていた。だから俺はいっぱい色んなことを聞いたんだ。
「じゃあ、知りに行こう!屋敷から出て、外を見るんだ!」
「…私もこの子も、外が怖い。出られない…」
「俺が連れて行ってやる!」
立ち上がって窓を開ければ、驚いたようにルーが俺を見上げた。ゴースも同じだった。
窓の外にはモモンの木が広がっていて、見える景色は夕日に照らされて森が燃えているように赤かった。俺がワカバからブビィと二人で歩いてきた、世界から見たら本当にちっぽけな田舎な風景すらもルーは知らないかと思うと、凄くもったいない気がして仕方なかった。
「俺、色んなところに行く予定なんだ!旅は大勢のほうが楽しいよな、ブビィ!」
「ブビィー!」
俺の友達も大賛成のようで、嬉しそうに飛び跳ねている。ルーは俺とブビィを交互に見ると、ゴースを抱きしめた。
「で、も…」
戸惑っているルーにブビィは駆け寄り、また何かを話すように鳴き始めた。それにうんうん頷いているルーはまるで、ブビィが何を言っているのかわかっているようだった。
「…わかった…この子と一緒に、ついてく」
窓から吹いた夕方の風が、ルーの長い髪を揺らす。目元は相変わらず見えないけど、微笑んだ口元がはっきりと見えた。
「決まりだな!」
手を差し出せば、きょとんとするルーに笑う。
「こういうときは握手!」
「…う、ん」
おずおずとぎこちなく俺の手を握るルーの小さい手。考えてもなかった旅の新しい仲間に思わず胸が躍るようだった。
「よろしくな、ルー!」
「…よろしく、リオ」




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