零
「うわ」
薄っぺらい紙を覗き込み、私は半ば無意識に呟いた。
赤でマルがひとつ書いてある、ただの紙きれ。
それだけの意味しか、ない。
…と思いたい。
「うわぁ、西東。お前また零点かよ」
隣りの席の神輿が身を乗り出して紙切れを覗き込みにやついている。
「五月蠅いよ」
そう言って私は紙切れを雑に折り畳む。
…本当は丸めて棄ててしまいたいが授業中なのでやめておく。
「これを見やがれ!!」
神輿は誇らしげに縦線とマルが二つ書いてある紙を見せつける。
「俺様またもや満点〜すごいだろ?」
「…ていっ」
でこピンの要領で紙を弾いてみる。
すると神輿は驚きながら紙を抱き締めた。
俺様の大事なテスト〜というコメント付きで。
…気持ち悪い奴め。
「満点が羨ましいからって酷いぞ!!」
「別に羨ましくないよ。わたし、零が好き」
そういうと、神輿は急にポッと赤くなった。
そして急に立ち上がる。
…あ。
コイツの名前、零だっけ…?
「あの…何か勘違い」
「点数に表すまでに俺を好いてくれてるのか!!俺も好きだよ百(もも)!!」
「いや、だからね…」
「神輿零、やっと彼女が出来ました!!」
「…もしも〜し。聞こえますか〜?」
「めでたいから餅でもついちゃおうかなぁ」
…駄目だ。
神輿は勘違い街道まっしぐらで帰ってくる気配は無い。
「…神輿君」
いつの間にか先生が隣りに居て、神輿の肩をポンと叩いていた。
「あ、せんせ…」
「授業妨害は止めてくれないかなぁ?内申下げるわよ」
「…ハイ」
にこやかな笑顔でそう言われ、神輿は大人しく席に座る。
プッと吹き出すと神輿はそっぽを向いた。
私は零が好き。
何もないのが好き。
だから、零って名前の君を
好きになるかも知れないね。
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一周年記念のフリー小説。
(フリー期間終了しました)
零と百のおはなしです。
零は馬鹿そうにみえて実は賢くて、百は優等生にみえるけれど馬鹿。
零みたいな子、書いてて楽しい!!
こういう勘違い街道まっしぐらな子すきです。
フリー期間
2006/12/2〜12/12
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