しょーとすとーりー | ナノ



君色電波


私は携帯を持ち歩かない。
否、持ち歩きたくない。
携帯電話の意味ないじゃんとか何とか言われるけれど持ち歩きたくないものは持ち歩きたくない。

だって、電磁波でるじゃない。

「…電磁波?」
「そう。電磁波」

聞き返されたのでもう一度言ってあげる。
岡野君は首を傾げながらシェイクを飲んでいる。

「携帯からは人体に悪い電磁波が出るの」

そう言うと岡野君は少し笑って。

「黒河さんて下の名前アリス?」
「…ありこです!!」

思わず声が大きくなった。

この人、全然私の話を聞いてない。

「『亜梨子』でアリスじゃなくてありこなんだー」

岡野君は名簿を見ながら一人頷いている。

「…岡野君」
「うん?」
「私に、何の用?」

そう言うと、岡野君はニヤリと笑った。

「秘密」

秘密って何だよ秘密って。

テストも終わり前期も終わり、終わったついでに部活もサボって帰宅途中、
『ちょいとそこのお嬢さん』
と岡野君に呼び止められファーストフード店に入り今に至る。

それなのに用が秘密って…

「いや、俺そんなこと言って呼び止めてないし」
「用が秘密なら私帰ります」
「え?俺の発言無視?って帰るの待って!」

立ち上がろうとする私を岡野君は突っ込みながら制した。

「今日さ、俺の誕生日なんだよね」
「そうですか」
「だからプレゼント頂戴」

悪びれた様子もなく、岡野君は手を差し出す。
私はその手を軽く叩いた。

ペチ、と叩いた割には可愛らしい音が響く。

「今日初めて話すのにプレゼント催促されても困ります」

全く、非常識よ。
っていうかプレゼントは催促してもらうものじゃないのに。

岡野君は満面の笑みで言葉を紡ぎだす。

「だって俺、黒河さんのこと好きだもん」
「…はい?」

今、何とおっしゃいました?

「一目惚れしちゃったんだよね。黒河さんて美人だし、話してみたら面白いし…もしかして彼氏居る?」
「生まれ変わって以来居ないけど…」

そう言うと、岡野君は私の手をとった。

「じゃあ、付き合って」

その言葉に私はあとずさった。

「む、無理!!私、イケメン耐性無いの!!」
「どんな理由だよソレ」

岡野君はおかしそうに笑っている。

私は美人って言われた事も告白された事も無いから嬉しい。
嬉しいんだけど。

展開が早すぎやしませんか?

「耐性無いなら耐性作れば良いんだろ?ってことで今から映画でも観に行く?勿論黒河さんのおごりで」
「え?今から映画?って私のおごり?!」
「だって今日は俺の誕生日だもんね〜」

ニヤリと笑い、私の手を掴む。

「さあ、いざ行かん!!」
「え?ちょっ…」

…全く。
見かけ通り自己中な人だ。

「…あ、そうだ。アド教えて」
「良いよ」
「…電磁波は良いのか?」

思っていた答えと違ったようで、少し驚かれた。

「良いの」

あなたとなら電磁波なんて気にならない。
声をかけられた時にそう思ったの。

だから。

「誕生日おめでとう」
「ありがと」



2006/10/03



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