キラキラ
花火に誘われたのはもう八月も数日で終わるという日。
「花火にはちょっと遅くない?」
そう尋ねると、佐武は複雑そうな表情になる。
何もそんな顔しなくて良いのに。
「…別に何も予定無いし、良いよ」
そう言うと、佐武はにっこり笑った。
◇◆◇
「手嶋、花火嫌い?」
唐突に聞かれる。
わたしは溜め息を吐き、花火を指差す。
「何で、無いの?」
「何が?」
佐武は少し首を傾げる。
私は大袈裟に溜め息を吐いた。
「手持ち花火よ手持ち花火」
私は袋を持ち上げる。
打ち上げ花火、ロケット花火、ねずみ花火…
何だか危なそうなものばかり揃っている。
「だって、こっちの方が楽しいだろ?」
「まぁそうだけど…」
私だって女の子なんだから、可愛く手持ち花火でキャーキャーしたいわけ。
なんて言ったら首を傾げられるに決まってる。
だから敢えて言わない。
つまり、人生諦めが肝心だってこと。
…ちょっと違うかな?
「…じゃあ一発目いっちゃいますか」
一番派手そうな打ち上げ花火を手に取る。
佐武は素早くチャッカマンを取り出した。
◇◆◇
「楽しかった〜」
「そうだね」
ニコリと微笑み、佐武は花火の後片付けを始める。
私もそれに倣い、ゴミを集め始めた。
「それにしても、何で今日なの?」
「うん?」
「花火ならもうちょっと早くにするでしょ普通」
「あれ?忘れてるの?」
忘れてる…?
眉間に皺寄せ考えていると、佐武は笑いを堪えている。
「なんでわら…」
「誕生日おめでとう」
誕生日?
…今日、私の誕生日だっけ。
「あ、ありがとう…」
「手嶋、クラスの花火大会も来れなかっただろ?だから花火が良いかな、って」
そういえば、事故って入院していたから行けなかったっけ。
憶えていてくれたんだ。
「楽しかった?」
「うん」
「良かった」
何故だろう。
ニッコリ微笑む佐武がキラキラして見える。
「よし、帰ろっか。送って行くよ」
「大丈夫だよ」
「夜道の一人歩きは危ないよ?」
確かにそうだけど。
キラキラ佐武を見ていると胸がドキドキするんだもん。
「ほら、行くよ」
彼は私の背中を軽く押し、歩き始めた。
その歩みはゆっくりで、歩調を合わせてくれているのがわかる。
「…」
歩く度に揺れる彼の手を、そっと握った。
2006.8.22
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