最期の子守唄
真っ暗な空間に私たちはいる。私は立っている。あの子は俯いて座っている。私からあの子までは遠い。かろうじて顔が確認できる程の距離だ。
私たちは対峙している。
生き残るにはどちらかが消えねばならない。私かあの子か。どちらかが消滅するしか術はないのだ。
あの子はさめざめと泣いている。私はそれを冷ややかに見つめていた。
「消えたい」
か細い声であの子は言う。繊細なあの子は今にも壊れそうだ。
あの子の足はうっすら闇に溶けていた。私はまだ白く光っている。
「わたしはいらない子なの」
「あなたはいらない子じゃないわ」
即答する。あの子はちらりと私を見て、そしてまた泣き出した。
「嘘よ」
「嘘じゃない」
一歩ずつ近づく。あの子はぴくりと肩を震わせて私から顔を背けた。
「もう手遅れよ。わたしは消えることを選んだの」
「あなたを消させはしない」
ブルーの似合う知的な女性は消えた。赤色の似合う情熱的な男性も消えた。紫の好きな貴族風の女も消えた。残ったのは私一人である。
みんなあの子のために生まれ、あの子のために消えた。それは私も同じなのだ。あの子の痛みを、辛さを引き受けるために生まれた。そして役目が終わった今、私は消えなければならない。
「わたし、あなたみたいになりたかった。あなたみたいに強くなりたかった」
「なれるよ。今からでも遅くない」
私はあの子を抱きしめた。あの子は驚いた顔をして、そして大声で泣いた。
生まれたのは偶然だった。辛いことしかなかった。けれど。
最期の子守唄にしては大音量だが悪くない。私はそっと目を閉じた。
最期の子守唄
(わたしは立ち上がって前を向く。これからは一人で進むのだ)
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多重人格的な。
joie様提出
「選んだ理由」
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