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星屑流星群


「星が欲しい」

屋上で寝転がって手を伸ばしながら高橋は呟いた。いつもの屋上、立入禁止区域である。僕は高橋がまたおどけて笑うのだと思い、笑顔をつくる。しかし予想と反して高橋は真面目な表情をしている。ちょっとびっくりした。

「高橋、なんでまた星なんだ?」
「流れ星に願い事したら願いが叶うんだ!だからだよ」

今度は笑った。いつもの爽やかな笑顔だ。高三の僕より四つ下とは思えない程に爽やかである。
実際彼はA棟の天使と謳われている。女性は彼の虜になるとかなんとかいう噂だ。どうやら高橋は女性を惹きつける容姿をしているようで、彼の病室には看護婦がひっきりなしに往来しているという噂だ。僕は色恋沙汰に興味がないのでどうでもいいことだ。

「中澤はさ、願い事ってある?」

唐突である。ついでに言うと僕の名前は安倍だ。惜しいどころか一文字もあっていない。
高橋は人の名前を覚えない。覚えないのか覚えられないのかは定かではない。しかし、高橋と知り合ってから一度も安倍と呼ばれたことがないのは事実である。

「そうだなあ…高橋にちゃんと名前を呼んでもらうとか?」
「え、名前って佐藤だろ?」
「……」
「じゃあ花本!」
「…もういいよ佐藤で」

じゃあって何だ、じゃあって。

盲腸で入院してから1ヶ月程の仲だが僕にはこいつのノリがわからない。まるで小学生から時が止まっているような振る舞いである。

あ、ほら。今もころころ笑ってる。

「高橋さあ、中学校でもクラスメートの名前間違えてんの?」
「え?…どうだろう?入学式以来学校行ってないからわかんないな!」

何でもないことのようにさらりと言ってのけた。
今高橋はどんな顔をしているのだろう。月明かりは上手く彼の表情を隠している。

「だから僕は星が欲しい」

高橋は背伸びしながら立ち上がった。こっちを向いて爽やかに笑う。その瞳が酷く儚げで寂しそうで、僕は思わず目を逸らしそうになった。

「星一つじゃあ小さすぎて僕の願いは叶わないんだ。もっと沢山星があれば僕の願いは叶うかもしれない」

高橋は言いながら視線を下の方に向けた。近くにある中学校あたりだろうか、そこを一瞥すると今度は星を見上げて手を広げた。
星を引き寄せるかのように広げられた細い腕は月明かりでより一層青白く見える。星を掴んだどころで取りこぼしてしまいそうである。
高橋のその瞳に宿った感情は僕の胸を締め付けた。

ああ、本当に欲しいのは星なんかじゃないではないか。

二本の腕は空に恋い焦がれるように優しく天に向かってのびていた。


星屑流星群
(地に堕ちた星は再び天に登る夢を見る)



+++



日常から弾き出された星のはなし。



反時計回り様提出
「堕っこちた流れ星」


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