しょーとすとーりー | ナノ



彼は何も言わなかった


もう春も中頃なのに異常に寒い日。
わたしは商店街で古本屋とカフェのすき間に挟まった彼をみつけた。
(何故挟まってるんだろう)
身動き一つ出来ないようで無言で街を歩く人達をみている。
(みんな彼に気付かない)

「…ねぇ、どうしてそんなところに挟まってるの?」

わたしは彼に近付き問い掛けてみた。
眼球が動き、わたしにむく。
二つの黒い瞳(実際こっちから見えるのは一つだけれど)がわたしをとらえた。

「……」

彼は何も言わない。

「ねぇ、わたしが出してあげようか」
「……」
「ねぇってば」

彼の手に触れようと手を伸ばすと、彼の手が消えた。
彼はそれをみて少し笑った。
(手が消えたのになんで笑えるんだろう)
そこから徐々に消失は始まってゆく。
彼は緩やかに消えていく。
(まるで魔法みたいだ)

「…消えるの?」
「……」
「ねぇ待って」

彼はわたしに少し笑いかけて、それから消えた。
彼は何も言わなかった。




☆.。.:*・°



幽霊の『彼』と『わたし』のはなし。


お題提供...lis

2007.04.30


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