エンドロール・アンコール
若本修一は死んだ。死因は知らない。私はただその事実だけを知っている。そして今、若本修一の存在を私は知覚している。
私は事故で右目の視力を殆ど失った。それからというもの、実体を見ることができなくなった瞳はこの世ならざるものをうつすようになった。右目の視力が衰えていくにつれて鮮明に、所謂幽霊たちが私の目前に現れたのだ。彼らが鮮明に現れれば現れる程、私は世間から孤立していった。
そんな時、私は若本修一に出会った。触ったら消えてしまいそうな気配を纏いながら彼は宙に浮いていたのだ。眉目秀麗なのも相まって美しかった。目が合うと彼は笑って大きく手を振ってきた。爽やかな笑顔が眩しい。
私は彼に恋をした。
いつものようにぱくぱくと、若本修一は口を動かす。笑顔である。
何を言っているのだろうか。
私には若本修一の声が聞こえない。私はこの世ならざるものを知覚できても聴覚できないのである。
名前だけは看板や標識を駆使して教わった。しかし他には何も知らない。わかるのは若本修一の容姿と着物の柄、下駄の色だけである。
「修一さん」
名前を呼ぶと若本修一はにっこりと微笑み何か言った。
こちらの声は届いているのに向こうの声は決してこちらに届きはしない。
「愛しています」
何度目かの言葉をそっと言った。若本修一は何か言いながら私を抱きしめる。
温もりも感触も、何も感じられない。
顔を上げると若本修一は目を伏せていた。私の視線に気づくと悲しそうに笑った。胸がしめつけられる。
私は彼に触れられない手に力を込めた。
エンドロール・アンコール
(打たれた終止符は私たちを惹きつける)
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命の終止符
と
日常の終止符。
その先で
惹かれあった二人。joie様提出
「終止符のその先」
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