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草食男子の憂鬱


田中の主食は草である。道端に生えた雑草をちぎっては食べ、ちぎっては食べを繰り返すのだ。田中は紺色の制服を何を思ったかホルスタイン柄に染めた。その姿はまさに牛である。

「牛じゃないよ。僕はベジタリアンさ」

田中は草をもぐもぐしながら笑った。よくもまあいけしゃあしゃあと言えたものである。
確かにベジタリアンと言えなくもない。いや、生粋のベジタリアンであると言った方がいいのか。しかし、田中をベジタリアンと呼べば全国のベジタリアンの皆様に申し訳がない。

「あかねも食べる?」

無邪気に差し出された右手には雑草。
食えるかそんなもの。
そう思いながらも受け取ってしまう私は馬鹿だ。それは多分、田中の笑顔に私の母性がくすぐられたからであろう。
田中は男にしては可愛らしい顔をしている。それに声が高く背は低いので高二の癖に中一に間違えられる。この前は迷子だと警察に保護されかけ、それ(草)は食べ物じゃないから手を離しましょうね、と優しく声をかけられたらしい。

「つまりだ」

もぐもぐ、もごもごと口を上下に動かしながら、田中はその大きな瞳で私を見つめる。

「僕、巷で流行ってる草食男子なんだよ」
「それは絶対に違う」

吐き出した言葉に田中はころころと笑うと草むらに寝転んだ。

「僕はウサギなんだ。でもウサギは嫌だからこうして牛の真似をしてる」
「…田中?」
「でも、時々思うんだ。そんなことして何になるのかって。ウサギは牛にはなれない。本質は変えられない。だから僕はいけない子なんだね」

色を濁した瞳には覗き込んだ私の顔などうつっていない。私は草を少しだけ口に含んで咀嚼した。寂しく苦い味がした。


食男子の憂鬱

(何事もなかったように笑う田中の瞳はとても赤かった)



+++



うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ。
そんな感じのおはなし。
ある意味草食男子な田中さん。


2010.06.04
眩暈提出
お題:田中


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