しょーとすとーりー | ナノ



Hasta luego.


「俺達、なんでこうなったんだろうな」

夕陽を背にして溜め息まじりに川村が淡々と呟けば、隣にいる高瀬がそうだねぇと相槌をうった。川村の目は死んでいて、高瀬の目はこれでもかという程細められている。

「不思議だなあ、高瀬」
「そうだねぇ」
「ていうかお前別に背高くねぇのになんで高瀬なんだ?あれか、名前負けってやつか?」
「そうだねぇ」
「それは残念だったな。もうでかくなれないから一生名前負けだ」
「そうだねぇ」
「あ、でもその一生はもう終わったんだったな」
「そうだったねぇ」

高瀬は適当に相槌をうっていたが会話に支障はない。川村は死んだ魚のような目で、夕陽に照らされた自分の身体を見た。
透けている。
地面より数十メートル上空を漂っているが風を全く感じない。感覚がないのだ。
左右を見渡せば、赤い点滅がはしっているのが見えた。こちらに来るまでまだ時間がかかるだろう。

「でもあれだよな、まさかお前と一緒に死ぬなんてな。美女ならともかく幼なじみの高瀬くんとなんて川村くん一生の不覚」

抑揚のない声で川村が言う。全くの棒読みである。

「土手で寝転んでたらトラックが突っ込んできたなんて世も末じゃん、世紀末じゃん、テンコーさんもびっくりの大魔術じゃん」

高瀬は突っ込みもせずそうだねぇですべてを流した。
細められた目はいつの間にか下を向き、地面にふした自分だったものを見た。傷だらけである。
それから少し離れた水中には川村だったものが浮かんでいる。その横ではトラックが仰向けになっていた。
運転手は途中でトラックから飛び降りていたようである。足を引きずりながら逃げようとしている。
高瀬の目はこれでもかという程細められた。上瞼と下瞼がこんにちはしそうになっている。

「さて、俺達はいつになったら消えるんだろうな。火葬されてからとか?それは嫌だなあ、燃えるのなんか見たくないし」

川村は死んだ魚のような目を更に濁らせた。

「僕たちは消え損ねたのかもしれないねぇ」
「ああ。未練があるのかもな」
「例えば?」
「彼女欲しかった!的な」
「僕には彼女いたからそれはないね」
「え?ちょ、高瀬、そんなの一言も」
「言ってないねぇ」
「うわあ一刀両断。えげつねぇ。で、誰よ?」
「B組の山口まゆみ」
「まじかよ、山口ってあのどすこいだろ?おにぎり大好きごっつぁんですって感じの。いっつも思ってたんだけど趣味わりぃよなお前」


音声ソフトのような調子で言われれ、高瀬は虚しそうに下を向く。
地上ではやっと救急車が到着したところである。野次馬も集まってきた。逃げようとしていた運転手は警察に取り押さえられている。

たとえ加害者が捕まっても、消えた命は戻らない。

川村の目が少し揺らいだのを見て、高瀬は細めた目をそのまま閉じた。



Hasta luego.
(さようなら、また会いましょう)



+++



それはいつも突然に。

2010.04.18


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