しょーとすとーりー | ナノ



ないものねだり

頑張って、と。
自分は彼に呪いの言葉を云いました。
自分は彼が一生懸命だったことを知っていました。しかし云わざるにはいられなかったのです。

「僕は頑張っていないかい?」

彼は震える声で云いました。自分は頷きました。何度も何度も、深く深く頷きました。

「そうか」

彼は顔を歪ませ痛々しく笑いました。その時自分は天にも昇る気持ちになりました。彼の心に一矢報いたのです。あの、何をしてもおどけた彼にこんなにも歪んだ笑顔をさせたのです。自分は頬を緩めました。
その時です。彼は懐から銃を取り出しました。彼はどういうわけかそのようなものを調達する手段を知っていたのです。その証拠にこの前、彼は私に鉄砲を一つ下さいました。しかし弾は一つも入っていませんでした。

なんだい、僕を撃つのかい?

自分は震える声でいいました。すると彼はなんの躊躇もなく引き金を引いたのです。
銃声の後、彼は右に傾き転がりました。左のこめかみに赤い赤い花が咲いているのを自分は冷ややかな目でみつめていました。自分には彼がばあ、と言いながらむくりと起き上がってくるような気がしてならなかったのです。
そんな折、彼の着物からころりと何かが落ちました。小さな箱のようなそれを手に取り開けると、そこには大きなダイヤのついた指輪が入っていたのです。
自分はそれを懐に仕舞いました。そして彼女のところに行きました。

「どうしたのです、そんなに急いで」

彼女は首を傾げて自分を見ます。自分はあの箱を渡しました。

「これはなあに?」

彼女はその白い細い指で箱を開けます。中身をみた瞬間、ぱっと花が咲いたように微笑みました。

「嵌めてくださる?」

自分は彼女の左手の四本目の指に指輪を通します。指輪はぴたりと彼女の指にとりつきました。彼の持っていた指輪はまるで彼女のために創られたかのようでした。
彼女の指にとりつきますます美しくなったそれはキラキラと輝きます。それを見た瞬間、頬に雨が伝いました。

「愛しているんだ」

その時になって、気づいたのです。



ないものねだり
(雨は自分の上にだけ降り続けていました)




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欲しいものを
どんなことをしてでも
手に入れたかった人の話

2010.03.24


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