Thank you for...
「なあなあ、なにしてんの」
グラウンドの右端。
ものすごくなげぇ草が生えた発展途上国みたいなところ。
そこにおんなのこがいるのを見つけたのはついさっき。
ちょうどバッティングが終わったからやって来てみたら、その子はじっと地面をみていた。
声をかけたら驚いたみたいで目を見開いて俺を見つめてきて。
…お?
目の色すっげぇおもしろい。
青みたいな緑色。
(まるで海の底みたいだ)
「 」
「え?」
その子は英語で何か喋ったけど、早口だったし俺はオーラル駄目だからさっぱりわかんない。
首を捻っているとその子はまた地面をみつめはじめた。
いま何て言ったんだよ。
(オーラルちゃんと受けとけばよかった!)
「えっと、英語で何ていうんだっけ……わっとゆーあー…違うなぁ……」
普段使ってない頭を動かすけれど何て言ったらいいのかわからない。
「うーん……だいいんぐ、じゃなかったよなぁ……」
「おーい! そんなとこで何してんだよー」
聞き慣れた声に振り向くと、みんながグラウンドの真ん中から俺を呼んでいた。
「おんなのこがいるんだ。英語喋ってるー俺、英語わかんねぇから誰か来てくれよー」
手招きすると、みんな顔を見合わせて首を傾げる。
そして俺の方を見て難しそうな顔をした。
「誰も居ねぇぞ。てかさっきから何一人で喋ってるんだよ」
「……え? いるだろ、ここ…に」
おんなのこを指差そうと振り向くと、あの子はどこにもいない。
うっとおしいくらいなげぇ草も折れたり踏まれたりしていなくて、あの子がいた証拠になるようなものは無かった。
「……あれー?」
「おーい、れんしゅー!」
「おー」
寝てた、のかな……俺。
目を擦って、それからグローブをはめなおして俺はみんなの方に歩き出す。
「……?」
ふと足を止めて俺がさっきまで立っていた地面をみると、そこには俺にもわかる単語がひとつ書いてあった。
「ありがとう、って俺何もしてないんだけどなぁ……」
ぽつりと呟いて、俺は中央にできた輪の中に入っていった。
Thank you for noticing.(気付いてくれて、ありがとう)
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ある日の野球少年の話。
2007/10/16
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