文(ES21) | ナノ


「ねえマルコ君、人間ってとっても哀しい生き物なんだね」
「はあ」
「他の動物と違う。本能のまま、ヘテロ同士で前置きとかいう複雑な前書き、そんなの無しに子孫を残す為だけに存在すればいい。そこに感情論は存在しない」
「…と、いうと」
「人間ってやっぱり哀れだよね。振ったり振られたり、下手すればストーカー行為や殺人事件なんかにも発展しちゃうんだ。それはそれぞれ全ての人間が欲望を抑える事が出来ないからだ。だからといって欲望が存在しなくちゃ世の中はまるで機能しない」
「いつもの力が絶対だのそういう話じゃないんだ」
「やだなあマルコ君、それはそれだよ。でもさ、僕が言いたいのは、人間と感情は切っても切り離せない関係だって事なんだよ。他の生物と違って、生殖にストーリーが必要なんだ。複雑に枝分かれした小難しいエピソードがね。そのエピソードがそれぞれの個体ごとの違いってものを生むんだ。だって嫌でしょ、マルコくんは。氷室さんとの行為全てが、世の中の恋人同士全てと全く一緒だったら」
「…まあ」
「でも当然さ、こういって感情に任せて恋愛っていう、結果的に生殖にしか繋がらない行為を繰り返してたら、少しからず狂いは生じてしまうんだ。他の、本能で生殖を行う生物と違ってね。」
「狂い?」
「そうさ。狂いだよ。同性が同性を好きになってしまうんだ」
「生憎そういった類の話には興味が無い」
「まあまあ。余談だけど、僕は人間の性交という行為が心底馬鹿らしいと思うんだ。生き物同士のただの生殖に過ぎないのに、何かと理由を付けたがるんだ。そこに言葉も声も、悦楽も何も要らない。通過儀礼として済ませて、ただ子供を生めばそれでいいと思うんだけど。まあ、人間が生まれながらに背負う七つの大罪ってやつに、色欲がある以上どう言いようもないんだけどね。フロイトか誰かの欲求階層説かなんかでも、性欲は人間に備わっているものなんだ」
「…マズローね」
「そうだそうだ。マズローだったね。曖昧なんだ、その辺の記憶。まあいいや、僕の話、少しでも理解して貰えたかな」
「自分がしている事端から端まで否定されている気がして、心地良くは無かったけどね」
「それは良かった」
「はあ」
「まあ僕は結局、僕が言った通りの哀しい人間でしか無いんだよ」





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