08


あっと言う間に男達を倒し終えれば残ったのは緑頭とピンク頭だけだった。
しかも二人の顔が微妙に引きつって見える。

「さぁて、後はお前らだけだな。どうする?」

矢野が瞳を細め、ニヤリと笑って言えば緑頭が怒鳴る。

「て、てめぇら俺達Dollに歯向かってただですむと思うな!!」

緑頭の口から出てきたDollという単語に矢野が反応する。

「へぇ、お前らDollの人間か…」

俺も一度は耳にしたことのあるチーム名に二人をまじまじと見た。
でもさ…

「なぁ、矢野。Dollって最強のチームなんだろ?事実No.1なワケだし…」

だが、どうみてもそこにいる二人が強そうには見えなかった。
矢野も俺の言わんとしていることが分かったのか肩を竦めると、男達を冷めた瞳で見やった。

「お前ら嘘吐くならもっとましなのにしろよ。あ〜ぁ、馬鹿らし」

矢野の言葉にとうとうキレたのか、二人は離れていた距離を詰め襲い掛ってくる。

「矢野、緑頭よろしく」

「はいよ」

俺は矢野から離れ、向かってきたピンク頭を相手にする。
ピンク頭の繰り出す蹴りを避け、懐に潜り込む。

「なっ!?」

ピンク頭の動きがにぶった所でにっこり笑ってみぞおちに渾身の右ストレートをお見舞いした。
それを、緑頭の腹に綺麗に蹴りを決めていた矢野が見て、

「御愁傷様…」

と呟いていたのを俺は知るよしもなかった。
倒れた男達をそのままに俺達は店に戻る。

「何か暇潰しにもならなかったな」

そう言った俺の頭を矢野が軽く叩く。

「廉さん、大人しくしてろよ。隼人さんにバレたら怒られるぜ。それこそあの時みたいに喧嘩にも連れて行ってもらえなくなるぜ」

「…うっ」

あの時というのは俺が囮になって一つのチームを潰した時の事だ。
皆に怒られて、一週間ちょっと喧嘩にも連れていってもらえず店で留守番をさせられた。

「…わかったよ」

俺が頷けば矢野はよしよし、と頭を撫でてきた。
矢野と店に戻った俺は奥のテーブル席に座り一人パフェを食べていた。

「ん、おいし!」

「廉さんって甘いもの好きだよな」

矢野は俺の向かい側に座り、コーヒーを飲む。

「まぁ、普通に好きだな。矢野は嫌いなのか?」

「俺はあんま好きじゃねぇな。廉さんが食べさせてくれるなら別だけど」

「はぁ?何言ってんだよ?あ、もしかして一口欲しいのか?」

俺はスプーンで一口分掬うと矢野の前に差し出してみた。
矢野は一瞬驚いた顔をしたが表情を元に戻すと何事もなかったかのようにパクリと食べた。

「ど?おいしいだろ?」

「甘い…」

俺がニコニコ笑って感想を聞けば矢野はコーヒーを口に含みながらそう言う。
なんだよ、人が折角あげたのに…。
俺がパフェをあらかた食べ終え、眠くなってきた頃皆が帰ってきた。

-カランカラ〜ン

しかし、その表情は暴れまわってすっきりしたと言うものでもなくどこか困惑したような難しい顔をしていた。
矢野は戻ってきた隼人に席を譲り、テーブルの横に立つ。
俺も隼人の話を聞くために食べ終えたパフェの器を下げてもらい姿勢を正した。

「何かあったのか?」

俺が心配そうに口を開けば隼人は首を振って話始めた。

「誰かに先を越されたみてぇだ。俺達がSnakeのアジトに踏み込んだ時には奴ら倒されてて地面に転がってた」

「何だそれ。いったい誰が…」

倒されてたって、俺達以外のチームにも手を出してたのか?それで返り打ちにあったとか…。
俺がそう考えていると隼人も同じことを言う。

「Snakeってチームは他のチームからも恨みを買ってたみたいだからそいつらの仕業かも知れねぇけど」

「けど?」

先を促してみたが隼人はいや、何でもねぇと口を閉ざしてしまう。
どうも隼人はSnakeが倒されていたことに戸惑ってるっていうより、倒した人物の方を気にしているように見える。

「隼人、そいつら誰にやられたとか言ってなかったか?」

隼人とその後ろにいる皆は言うか言うまいか考えあぐねているようだ。

「もしかしてそいつに何かあるのか?」

俺が真剣な表情で隼人をみやれば隼人は溜め息を一つ溢して言った。

「……奴らDollにやられたらしい」

Doll…またか。今日はよくその名を聞く日だなぁ。

「それで?DollがSnakeを潰してくれたんなら手間が省けて良かったじゃんか」

何をそんなに気にしてるんだ?








side 隼人

Snakeがアジトにしている地下のバーに足を踏み入れた時、俺達は目を疑った。
そこにはSnakeのメンバーだと思われる男達が何人も倒れていたのだ。
倒れている奴らの顔は赤く腫れ、体のいたる所に痣や傷があった。
その時点で誰かに先を越されたんだと理解した。
俺は構わず足を進め、この惨状を引き起こした奴が残っていないか確認する。

「隼人さん、アイツ…」

俺の後を付いてきた陸谷が一番奥にあるソファーを指して言う。
そこには顔色を真っ青にさせた男が虚ろな瞳でこちらを見ていた。
警戒しながら近付いて見るがどうやら男の瞳は俺達を写してはいないようだった。

「おい」

男の前で立ち止まり声を掛ける。
しかし、反応はない。

「おい、お前!!」

肩に手を掛けて揺さぶると男の焦点がみるみるうちに俺に合わせられる。

「――っ、うわぁぁぁぁぁ!!!」

だが、焦点が合わさったかと思えば今度は急に叫ばれる。

「うるせぇ、黙れ」

間近で叫ばれ、不快に思った俺が低く唸れば男はピタリと静かになった。

「てめぇがSnakeの頭か?」

俺が問えば男はコクコクと頷き喋り出す。

「あっ、アンタLarkの相沢だろ!?俺達はもうアンタらに手を出さない!!だから許してくれっ!!!」

急に何言ってんだこいつは?
その間にも男はベラベラ喋り続ける。

「許してくれっ!!まさかアンタらがアイツらと関係していたなんて知らなかったんだ!!」

知ってりゃ俺だって手を出そうなんて思わなかった。
と、余程怖い目にあったのか男はうなだれる。
しかし、こいつのいうアイツらってのは誰だ?
もしかしてこの惨状を引き起こした奴らか…?

「おい、アイツらって誰だ?」

「え?」

男は俺の問掛けに驚き、顔を上げて見返してくる。

「いいから早く言え」

「………Doll」

Doll?何でそこでDollが出てくる?俺らとアイツらに関わりは一切無いはずだ。

「Dollに何て言われた?」

「死にたくなければLarkに手を出すな…、そう言われた」

おかしい…、なぜDollがそんな事を言う?

「隼人さん」

考え込んでしまった俺に陸谷が声を掛ける。
そうだ、考えるのは後でいい。
俺は男の胸ぐらを掴んで引き寄せると眼光を鋭くさせ、睨みつけた。

「いいか、ソイツらの言う通り今後一切俺達に手を出すな。もし、同じ真似をしてみろ次は容赦しねぇ」

わかったな、と言えば男は苦しそうに頷いた。
それを確認した俺は男の腹に膝蹴りを決め、男の胸ぐらから手を放した。
ドサリ、と男が白眼を剥いて倒れたがもう用はないと踵を返した。

「てめぇら、帰るぞ」



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