屋上は禁煙です


ゆっくりと階段を上がり、目の前の扉を押し開ける。ギィと軋む音がし、視界一杯に青空が広がった。

「アイツは、っと…」

視線を巡らす前にふわりと風に乗り、薄く色付いた風が流れてくる。その出所を目で追い、俺は口元を緩めた。

「やっぱりここか」

給水塔の梯子に足をかけ、気を付けながら一歩一歩上に昇る。

その先に、給水塔に背を預け、空を見上げて煙草を燻らすアイツがいた。

「屋上は禁煙だぞ、伊達」

「ah…?何だまたお前か彰吾」

空に向いていた視線が俺に向けられる。

「彰吾じゃない。彰吾先生と呼べ」

「はいはい。で、まだ授業中じゃねぇのかよ彰吾センセ」

目の前で堂々と煙草を吸い、あまつさえサボり発言をする生徒、二年S組の伊達 政宗。コイツと俺は家族ぐるみの付き合いで所謂幼馴染みという奴だ。

「あぁ…、授業なら自習にしてきた」

「はぁ?アンタこそ何やってんだよ」

驚き、呆れた目を向けてくる政宗の隣に腰を下ろし、その手にある吸いかけの煙草を奪う。

「あ、おいっ!」

政宗が制止するのも構わず口へと運んだ。

「あんだ(何だ)?…教師にも息抜きは必要なんだよ」

煙草を加えたまま政宗に視線を投げれば政宗は何か言いたげに二三度口を開いたが、それはため息に変わった。

「はぁ…、アンタってそういう奴だよな」

「だから何が?」

フゥ、と紫煙を吐き出し、肩を竦めた政宗に聞き返す。

「何でもねぇよ。それより返せ」

「と言うか、そもそもお前まだ未成年だろうが。禁煙の前に吸うんじゃねぇよ。背が伸びなくなるぞ」

「ha、そりゃお前だろうが」

確かに歳は俺の方が上だが、背は政宗の方が高い。

にやりと小憎たらしい笑みを浮かべて、新たに煙草を取り出そうとしている政宗に俺はムッときた。

人の気にしてる事をコイツは。

「…おい政宗。ちょっと面貸せ」

だからつい、教師としてあるまじき台詞が口を付いて出たのも政宗が悪い…と言うことにする。

「ah?」

手を止めて俺を見た政宗の胸元をグッと掴んで引き寄せ、俺は加えていた煙草をコンクリの上に落とした。

そして、

「ふっ―…」

「んぅ!?」

唇を重ね、口内に溜まっていた煙を思いきり政宗の口の中に吹き込んでやった。

「――っう、…げほ、げほっ。彰吾…てめぇ…」

「フン、俺の親切心を無下にするからだ。分かったらもう吸うなよ」

踵でコンクリに落ちた煙草の火を消す。

涙を滲ませた隻眼で睨んだって怖くもねぇ。

俺は政宗を見返し、フッと満足げに笑ってやった。




(って、ヤバイ…生活指導の浅井だ!早く吸殻隠せ政宗)
(お前、良く教師になれたな…)



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