ここ最近、臨也がおとなしい。静雄と乱闘を引き起こすこともなければ、黒い噂もぱったり止んだ。
おとなしいに越したことはない。しかしあまりにも違和感があった。それはどうやら俺だけではないらしく、岸谷も「臨也がおとなしいなんて嵐の前の静けさだよね。もしくは病気……解剖は僕がする!」と言っていた。こいつやっぱりちょっとずれてる。

何かあったのか。野暮ではあるが気になってしまう。教室には臨也の姿はなかった。一体どこに行ったんだか……いや、臨也のいるところなんて限られている。
俺は真っ直ぐに目的地に向かった。たぶん、いや、絶対いる。屋上の扉を開けると強い風が吹き込んできた。寒くなってきたもんな。

辺りを見渡すと、やっぱり臨也はいた。給水タンクの上に座って、街並みを眺めているようだった。


「おい、臨也!」
「ん……ドタチン?」


俺の存在に気づいた臨也は梯子を使って一段一段降りてきた。
おかしい。臨也なら給水タンクの上からピョンと降りれるのに。かなり危ないから何度もやめろと注意したが、聞き届けられたことはなかったように思える。
唐突な臨也の変化に違和感を覚えながらも俺は歩を進める。
なんだか久々に会うような感じのする臨也をよく見てみた。

学校指定ではない黒を基調としたセーラー服は変わらない。しかし下着が見えそうなくらい短かったスカートが、膝より少し上なくらいになっていた。おろしていた背中まである長い髪を高く結い上げひとつにまとめている。現在あまり使われなくった「清楚」という言葉が脳裏に浮かんだ。今目の前にいる臨也はまさしくそれだった。

「どうしたのドタチン。俺の顔に何かついてる?」
「ああ……いや、何でもない」
「そう」

こんなにも美人なのに一人称が俺なことで、やっぱりこいつは臨也なんだと思う。俺が座ると臨也も隣に座った。臨也は「風が気持ちいいね」と微笑んだ。
たしかにこいつは臨也なのに、違う。正真正銘折原臨也なはずなのに、何かがおかしかった。

「……そういえば、最近喧嘩しないんだな、静雄と」
「あれはシズちゃんが喧嘩吹っ掛けてくるだけだよ?俺だって女の子なんだからあまり野蛮な真似はしない」
「全人類が好きだ、とかも叫んでないよな」
「そろそろ自重しようかと思ってね。女の子だもん」

やたら女の子を強調している。絶対におかしい。
俺は臨也の肩を掴んだ。力が強すぎたのは眉を潜める。その時の顔は俺の知る臨也そのものだった。

「……痛いよドタチン、離して」
「何があったか言え。おかしい」
「何のこと……」
「俺が気づかないとでも思ったか?」

多少強引なくらいに問い詰めると、臨也は言いづらそうに顔を伏せた。そして、こう言った。

「門田くんってどういう女の子が好きなの?」
「は?」

ドタチンという不名誉なあだ名ではなくちゃんと呼ばれたことにも、突拍子のない質問にも両方驚いた。

「臨也……?」
「へえ門田くんっておとなしい子が好きなんだ!そうだよね、そういう感じがするもんね!ありがとう門田くん、参考になったよ!」
「…………ん?」

臨也の意味不明な言葉になぜか聞き覚えがあった。どこかでこれと丸っきり同じ言葉を言われた気がする。どこだ、いつだ。記憶を遡り、思い出した。

「……何週間か前、図書室でそれと同じことを言われた」
「うん。聞かせに行ったのは俺だもん」

彼女俺の信者なんだ、と笑う臨也は、臨也らしくない笑みを浮かべていた。どこか辛そうな、陰りのある笑みだった。

「ねえドタチン、おとなしい子が好きなんでしょ?俺みたいに飛び回って喧嘩吹っ掛けて裏世界に足突っ込むような奴じゃなくて、いかにも女の子みたいな子。俺とは正反対な子だ」
「臨也!」
「ッ!?ドタチン……っ」

今にも泣きそうな臨也を抱きしめた。肩が震えてる。臨也はキョロキョロと視線をさ迷わせていた。

「ドタチン、なんで……」
「たしかに俺はおとなしいやつが好きだ。だけどそれはあくまで他人の話だろ?俺が付き合いたいとか、そういう目で見るやつは違う。世話のかかるちょっと……いやかなり問題児な、俺の一言に一喜一憂するような可愛いやつだな」
「……ねえ、それまるで俺のことみたいじゃん」
「まるでじゃなくてお前のこと言ってんだよ」

臨也の赤い眼から涙が溢れだし、腕が俺の背に回った。学ランが濡れていくが臨也が嬉しくて泣いているんならかまわなかった。

「ヒック……ドタチン、らぶ……人間よりも、ずっとずーっと、ドタチンが好きだよ……?」
「おう、ありがとな」
「ドタチンが殺せって言うならいつだって誰でも殺してみせるからね……?」
「そんな物騒なこと言うなよ……」

どんなことを言っても可愛く思えるのは恋をしているからか。恋は盲目とはよく言ったものだ。臨也の結い上げられた髪を撫でる。ポニーテールはたしかに好きだった。

「俺、ドタチンの部屋にあったエロ本みたいに巨乳女になってみせるからね!」
「おい待てなんで知ってんだ」





 
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