「……ったく、遅ぇなあいつ……」


時計を数分置きに見てしまうのは一体これで何回目だろうか。数えるのもめんどくさいくらいには静雄はそれを繰り返している。
待ち合わせ時間からもう30分は過ぎている。時間を指定してきたのは相手のほうからだった。
あと10分待ってこなかったら帰る。絶対帰る。そう思い静雄が新しい煙草に手を伸ばそうとすると、ようやく待ち人がやってきた。


「ごめーん、待った?」
「待ったに決まってんだろうがクソ女」
「ひっどーい」


クソ女と呼ばれた静雄の待ち人は臨也だった。以前は全身黒で統一したファッションだったが、最近では黒を基調としているのは変わらないが年齢相応のおしゃれをするようになっている。
臨也は静雄の向かいの席に腰を下ろすと、すれ違ったウェイトレスにコーヒーを頼んだ。


「ごめんね、ちょっと病院が長引いちゃって」
「ああ……大丈夫なのか?」
「まぁ、まだね。シズちゃんに心配されるなんて思ってもみなかったなぁ」
「おい……」


静雄の握っていたコップにピシッとヒビが入る。中身は飲み干していたため漏れはしなかったがもうこのコップは使えないだろう。臨也はその様子を笑っていたが、静雄が苛立つことはなかった。


「……で、何だよわざわざ呼び出して」
「ああ、渡したいものがあるんだ。シズちゃんにはいろんな意味でお世話になったし、直接渡したかったから」
「爆発物か?盗品か?それとも白い粉か?」
「残念ながらハズレです」


臨也はカバンをあさり、綺麗に包装された封筒を静雄に手渡した。静雄は受け取るとすぐに封を切ろうとしたが臨也にやんわりと止められる。


「……なんだよ」
「俺がいなくなってから開けて。目の前では開けられたくないから」
「おいコーヒー……」
「シズちゃんが飲んで。お金おいとくから」


臨也は札を一枚テーブルに置くと静雄に背を向けた。去り際に振り返った臨也は、静雄が今までに見たことのない女性らしいおだやかな笑みを浮かべていた。


「シズちゃん、ありがと。たぶん新羅がいなければ、シズちゃんのこと一番好きになれたよ」
「は」


その言葉の意味を問う前に臨也は店を出てしまった。
残された静雄は封筒を切り、中に入っていたものに舌打ちした。


「……最後の最後まで、本当にムカつく女だな」


それは、結婚式の招待状だった。




















「シズちゃん来てくれると思う?」
「静雄ならなんだかんだ言って来てくれるよ。泣きそうだけどね」


臨也は今、新羅の家にいた。
日取りも式場ももう決まっている。招待状を数少ない知人たちに送り、あとは細かい作業をするだけだった。


「ウェディングドレスはどうするんだい?買う?レンタル?」
「ああ、それなら波江さんが作ってくれるって。俺のこと一番祝福してくれたのはきっとあの人だよ」


新羅と臨也が互いに繋がった翌日、ぶっきらぼうによかったじゃないと言いながらも一番喜んでくれたのは波江だった。臨也は波江に恩も感謝も感じている。……ただ、見返りを要求されかねないのが怖いところだが。


「そういえば四木さんから電話があったんだけどさ」
「え、なんだい?」
「情報屋を続けるのかどうかってこと。とりあえずしばらくは続けるつもりだけど、量は減らしていこうと思ってるって答えといた」
「……いいの?」
「いいよ、俺が決めたことだもん」


臨也が新羅の肩に寄りかかる。新羅は甘えるように体を刷り寄せる臨也の頭を撫でた。


「信じられないよね、僕たちが結婚して所帯を持つだなんて。門田くんの方が早いと思ってたんだけど」
「ドタチンのお嫁さんになれる人は幸せだろうね。ドタチン完璧だから」
「……僕の嫁じゃ不服かい?」
「まさか!俺は新羅以外の誰のお嫁さんにもならないよ。俺には新羅だけ……、中学生の頃からずっとそう思ってたよ」
「臨也……」


ぎゅう。新羅が臨也を抱き締める。臨也は新羅に身を預け、一肌の温もりに酔いしれた。


「まっとうな幸せはあげられないかもしれないけど、大事にする。それだけは約束するよ」
「俺だけ?」
「ううん、僕たちの子供も……」


臨也は妊娠していた。まだ腹は膨らんでいないが、その中には確実に子がいる。静雄に会う前にも臨也は産婦人科に行ったところだったのだ。


「新羅と子供と、三人で幸せになるの。俺のこと棄てたりなんかしたら許さないんだからね?」
「その言葉そっくりそのまま返すよ。浮気なんてしたらどうなるかわかってるね?」
「こわいこわーい。そんなに心配なら繋ぎ止めててよ。ね?」
「……ばか」


新羅は噛みつくように臨也に口付けた。





ふたりに幸あらんことを!















end
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