目が覚めたら、視界に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。そんなことが本当にあるんだから恐ろしい。
こんな馬鹿げたことをするのは一体誰だろう。取引先相手?ヤクザ?それとも知人?思い当たる節がありすぎてわからない。

腕には手錠がされていた。体はベッドに縫い止めるように紐でくくられていた。シズちゃんだったらこんな拘束なんてものともしないんだろうけど、あいにく俺にはあんな化け物じみた怪力はない。さてどうするべきかと悩んでいると、ドアの開く音がした。


「臨也さん?もう起きてる?」


聞きなれない声だった。確認しようにもこんな状態じゃ体を起こせない。


「……誰?こんなことをするやつの顔が見たいんだけど」
「ああ、たしかにそれじゃあ見れないか。失礼しました」


俺の視界に入るとこまでそいつが近づいてきてようやくわかった。包帯で顔の大半が隠れてはいるが、たしか埼玉の暴走族のトップの男だったと記憶している。名前はたしか……、


「六条千景くん……だったかな?」
「はい。知っててくれたなんて嬉しいですよ」
「職業柄ね。で、用件は何かな?俺は君にこんなことをされるような筋合いはないんだけど」


俺は彼を利用しようとしたことはない。彼のグループを利用しようとしたこともだ。これまで一切接触していないし恨まれるようなこともした覚えはない。
つまり今回のこの彼の行動は意味不明。その一言に限る。

六条くんは人当たりのよさそうな笑みを浮かべながら俺の頬を撫でる。それが作り笑いではないことがよけいに不信感が生まれてしまう。


「本当は俺としてはこんな手荒な真似なんてしたくなかったんですけど、仕方ないですよね……?」
「何がだい?」
「平和島静雄」
「……っ!」


シズちゃんの名が出たことに顔がひきつる。なんだ、シズちゃんの関連者か。けれどシズちゃんと俺は全くの無関係だ。


「……もしかして、シズちゃんと君が対立して、それの黒幕は俺じゃないか……とか考えてたりする?ならそれは違う。断言してもいい。わざわざ埼玉のグループを呼んでまで喧嘩売ったりしないよ」
「いいえ、そういうわけじゃないんですよ」


ならどういうわけだ。そういう意味をこめて睨むと六条くんは楽しそうに笑った。


「こないだね、静雄と喧嘩してるあんたを見たんだ。びっくりしたよ、俺よりもずーっと細い、折れそうな体で渡り合うなんてさ。とっても綺麗だって思ったんだ。今まで何人も女の子たちと付き合ってきたけど、あんたのほうが綺麗だって思うくらいに。たぶんこれが本当の恋なんだなって」
「……それはたぶんただの羨望じゃないかな。恋なんかじゃない。勘違いにもほどがあるよ。ほら、早く外してよ。俺だって暇じゃないんだからさぁ」
「うるさい」
「うむぅ!?」


無理矢理唇を合わせられた。口を開けた状態だったから簡単に舌の侵入を許してしまって口内をかき回される。動けない俺はなすがままだ。
錠剤のようなものが喉の奥に押し込まれる。その次には口移しで水が与えられた。拒否することなんてできなかった。体勢が体勢だけにそれは困難をきわめて、俺は盛大に噎せかえった。


「げほっ、う、ぇ……っ何、を…飲ませた……?」
「ただの弛緩剤。ちょーっと黙って俺の話聞いてもらいたかったからさ。あ、ちょっとは話せるよ?いつものあんたみたいにぺらぺら話すのは無理だろうけど」


俺としてはそれをぜひ君に飲んでほしかった。そう言いたかったけど喉につっかえたみたいにうまく言葉がでなかった。


「俺さ、こんな気持ち初めてなんだ。ただひとりをこんなに好きになるだなんて。いっぱい女の子と付き合うのも楽しかったんだけど、臨也さんにはかえられないって。ねぇ臨也さん、あんたはどう思う?俺はあんたが愛しくて愛しくてたまらない。あんたが俺だけを見てくれないならその手足をぶったぎってやりたいと思う。これっておかしい?ほら、答えてよ」
「……きみ、は、くるって、る」
「へえ、狂ってる?面白いじゃん。ああ狂ってるのかぁ俺。いいねえ、愛のためならいくらでも狂えるさ。だから、」


六条くんの腕が首にまわる。気管をゆるく圧迫された。今はまだそえるだけ。でも、この力がいつ強まるかなんてわからない。


「二択だよ臨也さん。おとなしく俺の愛を受け入れるか、ちょっと痛い目にあって俺の愛を受け入れるか。前者のほうが俺的にも嬉しいんだけど臨也さんはどっちかなぁ」
「ふざ、けるな」
「ふざけてなんかない。そんなこと言うあんたは残念だけど後者かな」
「――っ!」


苦しい。酸素の供給が止まる。
生理的な涙を流すとそれを舐めとられた。なんだよそれ、気持ち悪い。


「選択肢がふたつしかないなら楽なのを選べばいいのに」


そんなこと知ってるよ、死ね。





 
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